サイコシリアル [3]
例えば『か す み が く ぼ の か こ は お や に ぎゃ く た い さ れ て い た』という信号が送られてきたら、普通であったなら『霞ヶ窪の過去は親に虐待されていた』と変換するのが正しいだろう。しかし、僕の場合は霞ヶ窪と会話しながらの解読作業だ。だから『過去 親 虐待』というように無駄を省き、接続詞等の一切の無駄を省き解読していた。そして、全てを解読していたら、時間が足りないし、タイムラグが生じる。
だから僕は、キーワードのみを抽出し、予測し、言葉として出していたのだ。
これが、戯贈の言う、僕の取り柄でもある『理解力』なのだ。個人的には自慢できるものではないと思うが、戯贈が認めてくれるのであればそれでいい。
「お疲れ様ね、涙雫君」
「それはこっちのセリフだよ、戯贈」
僕がそう言うと、戯贈は心なしか少しだけ柔らかい表情になった。
「そうね、本当に疲れたわ。少し寝てもいいかしら」
「どうぞ、家までおぶっていくよ」
そういた瞬間に、戯贈は両目を閉じ、深い眠りに入って行った。余程、疲れたんだろう。 すぐに穏やかな寝息が辺りに響いた。
ま、多分というか、絶対に。
これからが本番なのだろう。
僕は戯贈の過去を知ってしまった。闇に触れてしまった。トラウマを暴いてしまった。このことが、後の僕たちを取り巻く環境を大きく変えてしまうことは何となく分かってしまう。
他人の過去を知るということは、そう言うことだから。
それにしても、引っかかる。
霞ヶ窪の言っていた戯贈の過去。『一族』『政府』という言葉が。
ま、今考えても仕方のないことだ。
戯贈が目覚めたら必然的に事は進んでいくだろう。
だから、今はせめてゆっくり寝かせてあげたい。
僕は、そう思い至った。
作品名:サイコシリアル [3] 作家名:たし