サイコシリアル [3]
僕の右拳は見事、霞ヶ窪の右下顎を捉え、霞ヶ窪の意識を根こそぎ奪っていた。
始まりは、複雑だけれども、終わりというのは基本的にはあっけないものだ。
冷静を、平常を失ってしまった霞ヶ窪は、それを失った時点で負けが決まったも同然だったのだから。
僕も確かにキレていた。キレていたのだけれど平静だった。矛盾しているかもしれないけれど。そうなのだ。それが一番いいキレ方だから。それを理解していたから。
「戯贈・・・・・・」
僕は、意識を失い倒れ込む霞ヶ窪の傍らに、これまた倒れこんでいる戯贈に話しかけた。
「涙雫君、見直したわよ」
「はは・・・・・・朧気高校は超人の集まりの高校だろ。僕も例外ではないさ」
「それもそうね」
「でも、さすがにモールス信号はないだろ」
「でも、的確な信号だったでしょう?」
そう、戯贈が指を微かに動かしていたのは、いや、遠くから見ると微かに動かしているように見えるほど高速に動かしていたのは、僕にモールス信号を送っていたのだ。『・』という符号を使う『トン』、『―』という符号を使う『ツー』。この二つの符号のみでやり取りを行う。
戯贈は、指で携帯を一回叩き『・』を、指を携帯の上でコンマ数秒滑らせ『ツー』を、そして信号と信号の途切れ、つまり単語感の感覚はわずかコンマ五秒程度。
本当に馬鹿げていた。
「涙雫君なら大丈夫だと思ったのよ。あなたは馬鹿ではあるのだけれど、誰よりも理解力はあるのだから。裏を返せば、理解力があるということは、思考速度が速い、先が読める、などといったように頭が良い、ということよりも素晴らしいことなのよ。まさに実戦向きね」
「それにしても、信号を解読しながら、霞ヶ窪と会話するというのは我ながら超人めいていたと思うよ」
実際に、僕は戯贈から送られてくる信号を全てを解読というよりも変換していたわけではない。
作品名:サイコシリアル [3] 作家名:たし