サイコシリアル [3]
「お前には分かるか・・・・・・死ぬという恐怖が。残念ながら僕には分からない。味わったことがないからな。でも、恐怖を感じることだけは分かる。無知だから、無知は怖いものだから。なぁ・・・・・・霞ヶ窪・・・・・・一回、死んでみるか?」
霞ヶ窪の瞳に映るのは、悲愴や懇願や哀願の欠片などない━━恐怖。ただこの感情一色に染められていた。絶対を前にした無力。支配されるという強迫。把握されるという圧迫。それらが溶けあい恐怖という感情を作り出していた。
僕は、拾いあげたナイフを、霞ヶ窪の首筋ではなく、眼球へと突きつけた。
「見えるか・・・・・・霞ヶ窪。この先端が突きつけられるのが、どれほどまでに人を追い詰めるか理解できるか?」
霞ヶ窪は、最早言葉すら発しない。恐怖に全身を捕われている。胸倉を掴む右手にその震えが伝わってくる程に。その震えと同等に霞ヶ窪の感情も流れて来る。
「潮時か・・・・・・」
僕は、そう呟き、ナイフを持つ右手を振りかぶった。
「いいか、霞ヶ窪。金輪際なめるなよ・・・・・・殺し屋をなめんじゃねーぞ!」
そう言いつつも、僕はやはり人殺しにはなりたくない、という感情があるので、ナイフを離し、渾身の右ストレートを放った。
作品名:サイコシリアル [3] 作家名:たし