眠れない夜を越えて
携帯が震えて目が覚めると、猫達は居なくなっていた。少しがっかりして起き上 がると、体から何かが滑り落ちそうになった。とっさに掴むと、黒いロングコー トだった。微かに煙草の臭いがする。
公園を見回すと、離れたところでスーツ姿の男がたくさんの猫に囲まれて座っていた。
男の人の前にはキャットフードが入った大きなお皿が置いてある。
バリボリと微かな音が聞こえる。
「・・・」
目があっているのに2人とも言葉を発しなかった。
私はゆっくりと立ち上がり、コートを簡単にたたんだ。
「えっと・・・」
言葉に詰まっていると、男の人は立ち上がった。
「あの・・・」
私に背を向けると、食事に夢中になっている猫達を残して、足早に公園を去っていった。
「えー・・・」
とりあえず、猫達はあの人の猫なんだ。
ノラ猫だけど、毎日出勤前に餌をあげるのが習慣なんだ。
たまたま私がいて、
薄いブランケット一枚じゃ寒そうだったからコートを貸してくれて、なんだか気まずかったからコートも着ずに出勤していったんだ。
・・・あの人が餌をあげに来る前に家に帰ろう。
そうしたら、今夜もあそこで眠れる。
たくさんの猫を眺めながら眠れる。
私の夜の居場所。
夜を越える場所。
作品名:眠れない夜を越えて 作家名:ゆまり