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D.o.A. ep.8~16

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クォルバルトらヴァリムのエルフ部隊にロロナを加えた一行が、洞窟付近にたどり着いたのは、出発から半刻も経った後だった。
常ならば子供の足でもさほどかからないというが、今は魔物がウヨウヨ徘徊し、さらに自分たちでしかけた罠にかからぬよう、ずいぶん遠回りをしなくてはならなかった。
ロロナにとってはとにもかくにも、必死という言葉をいくつ重ねても足りぬ行程であった。
地元民である彼らに、彼女は置いて行かれないよう背を見ているべきか、足元に気をつけるべきか迷って、途方にくれそうだった。
彼女はのちも思う、あの時ちゃんと彼らを見失わずにおれたのはまったく幸運であった、と。

そのような知られざる奮励の末、ようやく彼女は目指した場所に迫ることかなったが、そこにあった現場は絶望を誘うばかりのものだった。
ある程度は覚悟をしていた。しかし想像以上の、かつて見たことのないほど大量の魔物どもに、呆気にとられ呼吸さえ忘れる。
まわりを見渡すが、先に行ったティルとライルの姿はなかった。
「ティルのやつ…こんな中越えて、本当に入れたのか?」
ガーナットと呼ばれる、露骨に態度の悪かったエルフがつぶやく。
いさかいを始めているらしく、それ幸いにロロナたちはまだ気付かれずにいるが、ひるんで立ち往生してばかりはいられない。
「さ、さあ!!行きましょう、みなさん…!」
「しかしこれほどとは…しかも非常に狂暴だ。突撃したって犬死にするだけさ。せめて爆薬でもあれば」
かろうじて突破口がひらけるのに、とクォルバルトは準備不足を嘆いた。そのとき。
地面が、大きく揺れた。
「な、なんだ?」
「地震みたいです…っ!」
ひときわ大きい揺れの後に震えるような比較的小さな揺れ、また再び大きな揺れ、と絶えることがない。
しばらく経てばおさまると踏んでいたのに、いっこうに止まらなかった。
魔物たちは、方々へ散りだしている。狂暴性はなりをひそめて、おびえる獣のごとく右往左往しているものもいる。洞窟の中にいた魔物も次々に飛び出してきた。
もはや混乱をきわめ、洞窟付近は、最初に比べればずいぶんと手薄になっている。
それは幸運だったが、この揺れがどうにかならぬかぎり、こちらも動くことはできない。
はたして、大きいほうの揺れが不意になくなった。
そのすぐ後、洞窟内部より大量の硝子が一度にくだかれたような、すさまじい音が鳴り響いたのである。
一同、ギョッと目をむいて洞窟を注視する。いったい、中で何があったというのだろうか。そして、ティルバルトとライルは?
「ティル…!?」
地面ではなく、洞窟が崩れ始めた。クォルバルト、追ってガーナット、セーエル、ローエル、ハーンが木の陰から飛び出した。
「み、みなさん!」
「ティル、ティルバルトオオオッ!」
絶叫しながら武具を携え、洞窟に突撃する。魔物をなぎ倒す勢いで突き進んでいく。
あの中にライルとティルバルトがいるとしたら。そう思うと、ロロナもいても立ってもおられず、後を追った。
「この野郎、邪魔だ、どけっ!」
「ガーナット、後ろ!」
魔物の胸を薙いだガーナットの背後に獣人型のモンスターの豪腕が迫る。クォルバルトが呼びかけるも遅い。
「―――封じよ!」
が、高らかなる詠唱の瞬間、その腕は不思議な光沢の黒い輪に胴ごとしめつけられていた。ロロナの拘束魔術だった。
のがれようともがく獣人型モンスターへ、ガーナットが振り向きざまに一閃を浴びせると、ほどなく絶命した。
「大丈夫ですか!」
「…あんたに助けられるとはな」
実に不本意そうに口をとがらせる。
「困ったときはお互い様ですよ」
「いつか借りは返すぞ」
背中越しにそう聞こえたので、おおげさな、とかすかに笑った。
それからしばし、洞窟付近は乱闘の様相を呈していた。だが、覚悟していたほど、魔物に勢いがない。
どころか、時が経つにつれ、勢いが萎えてきているように感じられる。敵意、殺気が当初より弱い。動きも悪くなっている。
(どうしたこれは?)
違和感をかかえつつも、やがて一行は奮闘のすえ、決してたどり着けそうもなかった洞窟の前に達したのであった。
いつ崩れるかわからないので、勇み突入せんとするクォルバルトを皆でなだめすかして、ごく浅い場所にて声を張り上げるにとどめてもらう。
「ティル、ティルッ、ティルバルトーッ!聞こえてたら返事しろーッ!」
「ライルさぁーんッ!いないんですかーっ!」
しかしながら、彼らの呼び声はむなしく闇にすいこまれてゆくばかりであった。
「もしかしたら洞窟にいないのかも…」
「いや、だけど、ティルは浅いところの調査ですむはずって言ってたじゃないか」
「ひょっとしたらずっと奥に…」
自らの想像に、さあっと顔面を蒼白にしたクォルバルトは、またもや突入せんとしはじめたが、ちょうどそのとき、入り口がガラリと鳴ったのである。
「ティルバルトオオオオオォォ!!」
完全に冷静さをすてさり洞窟の奥へ飛びこまんとする彼を、数人がかりで引きずりだす。
―――抜け出したとほぼ同時に、入り口の岩がガラガラとくずれ落ちていった。
「………」
地震が、止まった。
岩塊でふさがった洞窟を前に、一行は愕然とする。だれもが言葉を発せず、特にクォルバルトは、魂が抜けたようなまなざしだった。
「……あ、あの…。この洞窟には、ほかに別の入り口は?」
ロロナの問いには、力なく否定を返された。たしかに、他に進入口があるなら、ここにこだわりはしなかっただろう。
「…だ、だったら、岩をどかせましょう?応援をたくさん呼べば、なんとかなるはずですよ」
と、里のほうを示すべく体を反転させる。そして、ぎょっとなる。

「…間に合わなかったか。…まあ、当然だな」
黄金色の短髪、二振りのつるぎを後ろにさげた、長身痩躯。
振り向いた先に、見たこともない男が佇んでいたのであった。


作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har