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D.o.A. ep.8~16

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魔物の姿は、いつの間にか、ない。
否、気配はする。木々の間に。奥に。けれどもまるで姿を見せず、息を潜めている。
隠し切れぬ呼気が、エルフの耳でかろうじて拾えるほどに、奴らはその身を隠しているのだ。
襲撃のチャンスをうかがってのことではない。何かにおびえるときの態度である。―――まさか、この男に?
風に揺れ、木の葉がざわざわと低く鳴る。はりつめきった糸のような空気が場を支配する。
「…なんだよ、あんた」
敵意をむき出しにしながら、ガーナットが一歩進み出て、とげとげしい口調で質す。切っ先こそ向けてはいないが、抜き身の剣をにぎる手には力がこめられた。
その鋭い殺気は、対象外のロロナが身を縮ませるほどだったが、肝心の金髪男はまるで堪えておらず、わずかに肩をすくめて侮蔑的な笑みを浮かべたのみである。
「ッ、なにが可笑しいっ!返答次第ではただではすまさん!」
いきりたったガーナットは怒鳴って、剣先を男へ突きつけた。それを見て、男はクク、と肩をふるわせた。
「粋がるなよ。この程度の雑魚どもに、雁首ならべて尻込みしていた分際で、俺を?これが可笑しくなくてなにが可笑しい」
男の声には、こちらの滑稽さへのあざけりと、そしてなぜか、明確な怒りがあった。痛いところをえぐられ、反論すべくガーナットは口を開くが、
「ああ。まあ、そんなことは全く以ってどうでもいい。そんなことよりだ」
と、男は、
「リノン…リノン=ミラファードは、助かったか」
そう、いきなり話題を勝手に変えてしまい、彼らは呆然とした。
―――リノン。エルフの男たちにはなじみのうすい名である。聞いたことのない者さえいた。
よって、その問いにちゃんと答えられるのは、後ろで身を縮めているロロナのみである。
あなたはいったい何者?どこからあらわれた?リノンさんの知り合い?なぜ彼女が死にかけたことを知っている?
…などなど、彼女の頭にはいくつもの疑問が渦巻いたが、それを言葉に出すことを、本能的な部分がとがめた。
この男はいらだっている。余計なことをしゃべっては怒りを買うにちがいない。その末路、想像だけでゾッとした。訊かれたことのみ、簡潔に答えておくのが得策だろう。
「無事ですよ。ちゃんと…。もう元気を取り戻しておられるころかもしれません」
一瞬、男の表情が安堵にやわらぐのを、彼女は見のがさなかった。
そうか、とだけこぼすと、まるでそれだけのために来たかのように踵を返した。意味がわからない、と、ガーナットさえ激情を忘れ立ち尽くしていたが。
「待て!!…ティルは…薄水色の髪のエルフは、」
萎えかけていた空気を裂くように、取り縋るような叫びがあがった。失意に浸っていたクォルバルトだった。
この男がティルバルトの居場所を知っている可能性はいかにも少ないが、彼としては、一縷の望みに賭けたつもりだったろう。
すなわち、義弟は今も森を彷徨っている、というほぼありえない可能性に。
「ティルバルト=ソーティックは、ライル=レオグリットともに、たしかに洞窟へと入った。実に最奥まで来た。今も闇の中彷徨っていることだろう」
「!!」
男は振り返りもせず淡々と彼の希望をうちくだき、だが、とつけ加えた。

「必ず助かる。いや、助からざるを得ない。ここで死んだほうが、幸せだったかも知れんが」

そんな不吉な予言めいた言葉をのこすと、引き止める暇も与えず男は消え去った。
そして、それを待っていたかのように、木々の奥にて息を殺していた魔物どもが騒ぎだす。
こわいものがいなくなってくれたとでも言わんばかりだ。飛びだしてきたのは、当初ほどではないにせよ圧倒されるような勢力。
(ティルが…助かる…?)
あんな得体の知れぬ男の甘言など信じるに足るものであるはずがない。
けれど、あの男に、そのような虚言を吐くメリットが、果たしてあるか?それに、…信じたい己がいるのだ。

―――粋がるなよ。この程度の雑魚どもに、雁首ならべて尻込みしていた分際で―――

さらに、あの男の愚弄しきった科白がよみがえる。
そうだ。この程度、だ。あんな男にいわせれば、この程度、なのだ。
ふつりと蒔かれた希望の火種に闘志の火がともり、彼らに武具を構えさせるのだった。

「行くぞ!―――こんな臆病モノども、俺たちの敵じゃないッ!!」
クォルバルトの掛け声とともに、戦士たちは賛同の声を上げ、けだものどもと激突する。
わずかな瑞光と、不吉なる予感を胸に。

作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har