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D.o.A. ep.8~16

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洞窟の内部は地響きをあげながらゆれつづけている。
地下にて削岩機が暴れまわっているにひとしいこの状況は、いわば生き埋めになろうと試みることと違いない。
いくつもの岩塊が降りそそぎ、たえまない破壊がくりかえされていた。
ひとところに立ち止まっていれば、崩れてくる岩の下敷きになってしまいかねないし、実際に端に積み重なる虫の息の魔物どもに容赦なくぶち当たっていた。
時に、風球のとばっちりを受け、その身をこなごなにくだかれていることもあった。
そして、魔物がひしめく当初は気付けずにいたが、こうして一掃されたことにより、この最奥の空間に穴がいくつも見てとれた。
この空間に通ずる道は、ティルらが通ってきた道だけではなく、ほかにいくつも存在すると聞いている。

粉塵で視界もろくに利かない中を、「アライヴ」とバスタードは、地を、壁をまでその足場としながら、激しい攻防を続けている。
否、攻防ですらない。すなわち、致死の暴力を放つ「アライヴ」と、それを回避するばかりのバスタードという図である。
「アライヴ」は、目的も知性もなく荒れ狂う、自然災害のようであった。
自然災害に、いかに桁違いの武人が挑んだところで、はなから勝負になるはずもない。
風球は烈風を帯びながら縦横無尽に飛び、地面といわず、壁といわず、天井といわず、ただただ突き破ってえぐる。
バスタードは、風球にはかすったことさえなかったが、それが帯びる風から逃れきることは難しく、切り傷をかなりこさえていた。
けれどもそんな絶対的劣勢のなか、彼は攻勢に転じる。
粉塵に視界がさえぎられたとき、気配から「アライヴ」の現在位置をよみ、そのつるぎを閃かせたのであった。
「アライヴ」からは、眼前に迫るまで彼の姿は見えなかった。
わざわざ神経をといで気配をよむなどという芸当をなさずとも、圧倒的優位は「アライヴ」のものだった。
「ッぐ……!」
結果、懐に入ることをゆるし、即座バスタードの太刀筋が、「アライヴ」の首からななめに脇腹までをとらえる。鮮血が、噴き出す。
それで終わるはずである。傷の深さ、位置、出血の量、あらゆる点から見ても、到底死からのがれられない。
ところがあいにく、この男は怪物であった。
さすがに痛みはあったとみえ眉をしかめたが、切り裂かれ破れたライルの服から覗く傷が、すぐさま白煙をあげはじめた。
最初、魔物に食いちぎられたときと同様、急速なる治癒がおこなわれている。
まったく塞がってしまうまで要した時間は5秒となく、バスタードがせっかく負わせた深手は、その痕跡すら消えてしまったのだった。
「…、化け物が」
治癒中に距離をとったバスタードが、何の変哲もなくたたずむアライヴにそんな悪態をつく。
とはいえ、さほど悔しげでもない。でたらめな治癒力は、はじめからわかっていたことだった。
「アライヴ」は歩み寄る。その緩慢さには、獲物をおいつめきった捕食者の態があった。―――しかし。
「―――この分ならば、“デッド”のことさえもわからんだろうな」

「…、で、っど…?」
苦笑とともにつぶやかれた言葉に、「アライヴ」が止まった。
「デッド…、デッド、デッド…」
「…?」
壊れた音声機械のごとく、その一部分を何度も何度もくりかえす。終わりなく、くりかえす。
「デッド、…知って、いや、知らない、…だれだ、デッド、デッド、デッド、しら、ない…ッ!」
バスタードは、我が意得たりとばかりに目を細めた。
ついに膝をついてしまう。激しい頭痛でもうったえるように頭をかかえて、なお「デッド」なる単語を反復する。
だがバスタードは、スキだらけの「アライヴ」に、刃を向けようとはせず、代わりに、更に言の葉をかさねる。
「ティルバルト=ソーティック。“デッド”より伝言だと武成王に伝えろ」
まったく予想だにせず水を向けられ、ティルは思わず辟易する。

「――近きうちに参る、と」

直後、世界が真っ赤に染まる。
あまりのことに、ティルは己の目が狂ったと思った。だがそうではなかった。真っ赤に染まったのはこの空間そのものであった。
刹那、まるで一万の硝子が一気に割れたかのごとき、鼓膜が破れそうな大音がひびきわたる。赤と岩色がはげしく点滅する。
徐々に点滅が緩やかになり、完全な岩の色に戻った、と思ったとき、ズン、とかつてない大きな揺れが襲った。
ふとバスタードは、と気付き見回すが、いつのまにか彼はどこにもいなくなっていた。
(…どこに)
しかしやがて、ズズズ、と立ってもいられないほどの地鳴りがやってくる。ティルの頭に脱出の二字がくっきりうかんだ。
この揺れは間違いなく、本格的な崩壊の始まりだ。
難しい問題など生きて帰ってから考えればよい。とにかく、逃げなくては生き埋めである。
ライル―――今は「アライヴ」だが―――を放ってもおけず、グラグラと定まらぬ足元に耐えながら近づく。
けれどもよく見ると、「アライヴ」も既に存在しなかった。バスタードも、「アライヴ」も、あの不可解な点滅の間にいなくなったということだろうか。
「アライヴ」に代わってそこにうずくまっていたのは、血のりをべったりとつけながらもいたって無傷で眠りこけている、「ライル」であった。
「…………」
状況にあまりにもそぐわぬ平和な寝顔に、あきれはて無言になる。
と、背後から気配もなく、ぬっとトリキアスが頭を出した。
「…元に戻られたのですか」
「あ、ああ…そう、らしい」
いくぶん落胆したような声色をにじませている。戸惑いを隠せぬティルを尻目に、手にしていた紅きつるぎを蒸発するように消滅させた。
「まだごゆっくりしておられたいのでしたら、お先に行かせていただきますが」
はっとして、すぐさまライルを担ぎ上げる。詰問も糾弾も、帰ってからだ。
彼らは、走った。


作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har