D.o.A. ep.8~16
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「クォルさん。もしかしたら…」
「…今度こそ、確かめなきゃならんね」
罠にかかって死んでいる魔物を跨ぎながら、ロロナは必死でクォルバルトらに続く。
辛うじてついて行けているが、彼らは歩幅が大きく、更に森に慣れているので、彼女はまだそんなにしないうちからかなり息が上がっていた。
ゆえに彼らの会話などに気を向けている余裕などない。
聞こえたのは、彼らが少しの間立ち止まったためである。
何がもしかしたら、なのだろう。やけに真剣な表情で話している。ロロナは息を整えながらたどりついた。
「あの、何のお話か、訊いても?」
このタイミングならば、恐らく話題に上るのは洞窟関連だろう。
ロロナは緊張しつつも報告書のために訊ねてみた。今日はやけに勇気を振り絞る日である。
「…なんで、部外者の女なんかに」
黒髪のエルフが、出しゃばるな関係ないだろ、と言わんばかりに睨みつけてくる。
ロロナはすみません、と弱々しい声でうなだれて退く。
クォルバルトは頭を掻きながらその間に入った。いまだ目つきのきついエルフの肩をポン、と叩く。
「ガーナット」
「だけど、クォルさん」
「彼女はロノア王国軍から来た正式な調査員だぞ。ヴァリメタルのことをなるべく知ってもらう必要は、ある」
落ち着いた声が宥め、ガーナットと呼ばれた男はしぶしぶ引き下がった。
ロロナはクォルバルトを遠慮がちに見上げた。彼は頭を掻きつつ、語りだす。
「とは言っても情けない話、こんな近くに住んでいるのに、ヴァリメタルのことはほとんど知らない。青くて光って魔物が寄り付かないってことぐらいか。知ってた?」
「…はい」
「あ、やっぱり?ガッカリした?もったいぶってスマンね、このとおり。で今話していたのは、」
と、言葉を切り、仲間にちらりと視線をやる。
「昔、…10年以上前かな、ヴァリメタルが赤くなったと大騒ぎした奴がいてな。
確かその時、ほんの少しの間、魔物が凶暴になった、記憶がないでもない」
クォルバルトは木々の葉から覗く空を見つめる。遠い過去に思いを馳せるような目だった。
「まあ、結びつけるにはちょっと強引かとは思うよ。赤くなった、なんて事自体、前例がない。前例がないから過去に照らし合わせることもできない。
それにその日、ある事件があって、すぐに確かめに行くどころじゃなかった」
「事件…」
「身内の恥だから、ここで言うのはちと勘弁してほしい…」
申し訳なさそうに小さくかぶりを振るクォルバルト。
「…後で行ったら青かった。でも、そいつは嘘吐くような奴じゃなかったから色々試したよ。でも、どうやっても赤くならなかった」
「その人に、どんな状況だったか、詳しく聞けば判るかもしれませんよ」
「ああ。でももうムリなんだ。だって、そいつ、その事件で死んだから」
10年以上前の事件。人死にさえ出ている。それはロロナの頭にきっちり記憶された。
「赤かった事実さえ不確かなのに、赤くなったのは事件が起こる前だった!よってアレは災い警報器だ!なんて、すごい飛躍的な憶測もあったよな」
「薬師の婆さんだっけ、言ってたの。あれ以降、なんとなく不気味で洞窟には行かなくなったんだった」
確かセーエルとローエルと呼ばれていた、割とよく似た―――恐らく兄弟だろう―――二人が苦く笑う。
「災い…警報器…」
「いずれにせよ、もっと早くに確かめておくべきでしたね」
「…仕方なかろうさ。不確かな情報につられてあんな洞窟に入って、死人が出る方が事だ。
―――時間を食ったな。行くぞ」
作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har