D.o.A. ep.8~16
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バスタードの双剣と、トリキアスの紅いつるぎがぶつかる。
今まで響いた剣撃の音の中で、もっとも力強い金属音。飛び散る火花。
しかし、鍔迫り合いになることはなく、トリキアスはすぐさま跳び退り、間合いを取った。
携えた赤いつるぎを下ろす。それが直後、パン、と粉々になって砕け散った。
刃から柄まで、すべてガラスのようなもので出来ていたかのように、その手には何も残らない。
「たかが刀剣の紛い物が、我がアニマとクオーレに、いつまでも太刀打ちできるとでも思ったか?」
バスタードは武器を失って無防備、とはいかぬまでも、明らかに隙のできた相手を追い詰めず、そんなことを言って一笑する。
「滅相もない。こんな無銘が真なる名剣に勝る道理など。 …まあ、予想よりは長持ちしましたがね」
手を広げれば、再び同一の紅いつるぎが現れ、柄を握る。
「あなたに、私との戦いと並列して意識を傾けている事柄があるからですよ。 ―――気付いていないとでも?」
「……」
バスタードにつるぎの切っ先を向けると、血のようにどす黒い目を眇め、
「いったい、あんな凡庸な少年ごときの何が気懸かりなのか、是非お伺いしたい」
いまだ昏々と深い眠りより覚めぬライルを顎で示し、少しばかり苛立ったように語気を強めた。
彼の問いかけに、バスタードは答えない。
そしてあろうことか、手にしていた双剣を鞘へとおさめ、身を翻したのである。
さすがのトリキアスも唖然とした。これはまるで戦闘放棄ではないか。
「どういうおつもりです?」
「飽きた」
「……今、なんと?」
彼は岩肌にもたれかかると、腕を組み口角を吊り上げ、そして。
「お前たち、今までよく耐えた。―――今より遠慮はいらん、さあ、喰いたいだけ貪るがいい」
そう、ひしめく魔物どもに、欲望の解放を許すと告げた。
「なっ…」
血走るほどに飢えた魔物どもの視線がトリキアス、ティル、ライルの三人に向く。囲まれるのはあっという間だった。
「獲物はたったの三人だ。もたつけば喰いっぱぐれるぞ」
バスタードが愉快気に煽り、唸りが咆哮に変わる。
おびただしい群れが、一斉に飛びかかってきた。
バスタードとは対称的に、心底不快そうに眉を寄せトリキアスは、それらをものともせずに屠る。
紅い剣が的確に魔物どもの首や急所を薙いでいく。明るい場所で初めて目にする、無駄のない洗練された戦い方である。
「すぐに辿り着きます。逃がしませんよ、あなたは私の獲物だ」
「………」
バスタードは酷薄に瞳を細める彼をちょっと見遣って、それから目蓋を伏せた。
作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har