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D.o.A. ep.8~16

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ライルは固く目を瞑っていた。
光の気配さえわからぬよう、ぎゅっと。
触れられる距離にある、かつてあった、いまや遠い遠い、いとおしい日々が、そこにある。
しかし夢なのだ、手を伸ばしても何の意味もない。
心の奥底から湧き出てあふれそうな懐旧の念を必死で抑え込む。
ありえないものが目の前にあることはわかっている。目に入れても泣きたくなるだけだ。
ならばいっそ、夢から覚めてしまうまで、こうやって何も見なければいい。
遠くで狼の遠吠えがする。やめろ、と耳を塞いで座り込む。早く覚めてくれ。早く覚めてくれないと、縋ってしまいたくなる。
かつての日常は何度か夢見ているが、これほどまで、目に映るものや匂いや触れた感触が、現実感を伴うものは初めてだった。
あんまりにも現実感を伴いすぎて、さっきまで何をしていたのか、忘れてしまいそうなほどに。

(こんな夢を見ている場合じゃない、…現実に帰ってやらなくちゃならないことがある、のに)
「早く…、早く…っ、覚めろ、覚めてしまえっ…」
念じていた拒絶が、いつの間にか言葉となって唇から繰り返される。
そんな時だった。

絹を裂くような悲鳴が迸ったのは。
家の中からだ。
―――自分の、家の中から。
「!!」

苦悩は真っ白になり、矢も盾もたまらず、転がるように駆け出した。
扉は、鍵がかかっているのか、ひらかない。
もたつき、苛立ちに任せて、体当たりで破って入り込む。なぜか明かりの無い我が家を、手探りで進む。
足が縺れそうになり、自分の家なのにうまく歩けないのがもどかしい。
二階への階段から、何かが転がり落ちてくるのがわかった。冷水をかけられたみたいな悪寒に襲われる。
暗くて顔が見えないが、体つきから男だということはわかる。ならばこの人は、父なのか。
逃げなさいと、どこかで女が叫ぶ。母か姉のどちらかだ。どちらでもいい。――――2階へ。

だが、時既に遅い。
床には血まみれで倒れ伏した女と。

―――そして、それを見下ろす男がいた。
「……」
愕然とする。
それは、立っている男への憎悪と激情になった。
直後、雲に隠れていた月が現れて、見えなかった男に光をさす。
返り血をかぶった男が、ゆっくり照らされていく。

その瞬間、何かが頭の中に、パズルのかけていたピースのごとくはめ込まれた。
信じたくない。
けれども、わかる。これが本当の光景だと、頭のどこかが訴えてくる。
ならば、もう、誤魔化し続けることなどできはしない。

「…あ、」


――――野盗だと?
違う。10年前、家族を■したのは。



がくりとくずおれて、彼は狂ったように声を上げた。



作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har