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D.o.A. ep.8~16

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夜半。王都といえど表通りは、昼間の喧騒のなりをすっかり潜め、濃い夜闇のなか風が塵を舞わせる。
そんなところに、一人の男が立っていた。

その姿を見たものは、まず不吉な感覚に囚われるだろう。
目と髪の色が、まさしく「血」を、しなやかな身体に纏う衣が、「烏」を連想させるからだ。
黒猫が横切った、のたぐいである。
そんな感覚に囚われた一瞬ほど後に、その恐ろしいまでに整った面のつくりを見て、ハッと息をのむのだ。
睫は音がしそうなほどに長く、すっと通った鼻。形のよい唇には、だいたいにおいて笑みが湛えられている。
一見してひどく優しげにも、また時に背筋が凍るほどに残酷げにも映る。
矛盾をはらんだ恐ろしいまでの美は、性別関係なく人の目をひきつけてやまない。
修羅場を潜った者ならば、纏う空気が、堅気のそれでないことがはっきりとわかるのに、物腰はどこまでも上品。けれど気圧されて近付くことに畏縮させられる、そんなひとであった。
ただし、いかような人物であろうと、今ここには彼を見る者も恐れる者も、誰ひとりいはしない。
その手には、薄汚れた紙が一枚、あった。
何が描かれているのか、彼は夜目が利くようで、すっと片目が細まる。

彼は、むこうに陰だけが見える、ロノア城をしばらく眺めてから、街燈さえもが薄く光る裏通りへ足を向けた。
どこかいかがわしい、乱れた裏町は、夜こそその本領を発揮する。
昼間の表通りには程遠いが、それでも下品なまでに点滅するネオンが溢れる通りは賑わっていた。
客引きをする女たちに一瞥をくれることもなく、どこぞ定まった場所を目指すように、彼の足取りは確かだ。

やがて、ある、乱痴気騒ぎが外からでも窺える酒場の前に来ると、扉を押す。
取り付けられたベルがうつろな音を立てた。

「いらっしゃいませ」
やかましいまでに盛り上がった酒宴をいくつか通り過ぎ、奥でグラスをみがく、おとなしそうなマスターに何事かを告げる。
すると、得心したように頷いてカウンターから出てきた。

「こちらでお待ちです」
一角にたどり着いて、戸を開いた。
中は六畳ほどで、硝子製のテーブルを挟んで両側にソファ状の椅子がひとつずつ。
たったそれだけの部屋だった。
一方には既に来ていた男が腰かけていた。座る場所にこだわりはない。あいている方へと身をもたれかからせる。
「ごゆっくりどうぞ」
窓の一つもない一室。入り口が閉まると、乱痴気騒ぎがぐっと小さくなった。

「……お手紙、拝見致しましたよ。いやはや、驚きました。なにせこのような内容の文を頂くのは初めてなものでして」
長い足を組んだ赤毛の男がかすかに皮肉っぽく笑った。テーブル上に薄汚れた紙を封筒ごと投げうつ。

「頼みがある、来てもらいたい――あまりにも不躾だとは思われませんか。そんな二言だけでこの私を呼び出そうなど、礼儀知らずもいいところだ。
あなたほどの相手でなければ、さっさと破り捨てて無視を決め込んだところですよ」

向かいの男はわずかに口の端を上げる。こうして向かい合える確率は半々だと思っていた。
もしも来なければ仕方がない。だが、仮に、礼を欠いた手紙に文句を言いにやって来ただけだとしても、やってきた以上こちらの勝ちだ。
確信がある。こちらの頼みを、紅き死神は絶対に断るまい。

「―――では、さて。頼みとやらをお伺いしましょうか。武成王閣下?」


作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har