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D.o.A. ep.8~16

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意識が不意に、現実に浮上する。
身体がひどく重い。身体を起こすどころか、指の一本、果ては目蓋を上げることすら、今は重労働だった。
思考を働かせることだけは苦でなかったので、どうしてこんな状態なのか、記憶をたどる。



仕事。―――仕事で、私たちは森に、入った。
青い魔金属、ヴァリメタル。ありえぬ魔物の大量発生。深い森を勝手知ったるふうに突き進んでゆくティルバルトの背。
従って歩いていると、うっかり罠にかかった。ティルバルトがさけぶ。ソレが、対魔物用の強烈な毒針だ、と。
とつぜん手足からがくんと、力が抜ける。まるでその部分だけ作り物にとりかえられたみたい。
それなのに、傷口から耐え難いほど熱い液体を注入されているよう。これが毒。
ライルがロロナのハンカチで縛ってくれたので、毒の進入がゆるやかになる。
でも、もう一人では歩くこともできない。なんとも間抜けな有り様。完全にお荷物だ。
そんな自虐に陥ったところで、意識が飛び、気付けばライルに背負われていた。
もうちょっとですからがんばってください、とロロナが、励ましてくれる。いったい何がもうちょっとなのか、わからなかったが。
こうして現実的に意識があるということは、どういうわけか生き長らえることが出来たようだ。


「意識、回復したんですね!よかった…!」

女の声がする。心配げで、安心げな。
少しだけ、身体に力が沸いてきていて、今ならば眼を開けることもできそうである。
糊でくっついているみたいだったが、震わせながら持ち上げる。

「薬師さん!リノンさんが目を開けました…!」
大袈裟だと苦笑したくなるくらい、覚醒を喜んでいるのは、黒髪の女の子、ロロナ。涙を浮かべて、誰かを呼ぶ。
「……、ここは」

リノンに見えているのは彼女の顔と天井だけなので、ここがどこなのかがわからない。
訊ねようと喉を震わせると、いつもより幾分弱々しい、かすれた声が出た。
「ここはあの森にあった、エルフの隠れ里の、薬師のおばあさんのおうちです」
「隠れ里…」
あの森林の中にそんな集落があったのか。全く知らなかった。知られざるからこその隠れ里ではあるが。


トン、トン、と小さなゆったりした足音が上からする。階段を下りてくるようだ。
姿を見せたのは想像していたより、しっかりと背筋を伸ばして立つ老婆。
エルフは美しい。彼女にもかつて美しかった面影は残っている。
けれど、そんなことより、こちらを見下ろす表情が気になった。
疎ましげな、あるいは畏れているような、なんにせよ好意とは遠い。

「この方が解毒をしてくださったんですよ」
正座に直って、ロロナは手で示す。ベッドではなく床の寝床である。
「ありがとうございました。助けてもらって」
心象は良くないが、それはそれ。助けられて礼を言わぬは礼儀に反する。
「……歩けるのかい」
ぶっきらぼうに問われる。

「歩けるのなら一刻も早く出ていけ。ティル様の頼みでなければ、誰が好きこのんでおまえのような者を」

冷淡に言い放ち、背を向ける。
こちらに良くない思いを抱いていることは明らかだったので、リノンからすればそこまで突飛な言動ではなかったが、ロロナは違った。
「ひどい…!なんで、なんでそんな事言うんです!」
「いいのよ…。エルフはヒトと馴れ合うのが好きじゃなくて、このおばあちゃんは特別ヒト嫌い。…そういうこと、でしょ」
起き上がろうと試みるが、まだ力が入らない。
「悪いけどまだ動けないわ。回復したら言われなくてもすぐ出て行くから心配してくれなくていいわよ、薬師さん」
皮肉っぽく笑う。
老いた薬師は、そうかい、と呟いて、去り際に、

「わたしをヒト嫌いだと言ったがね。
―――お前のことは、この里の者ならば、ティル様以外、誰であろうと、疎んじるであろうよ」

そう、忌々しげに吐き捨てた。
もうこの場には一秒たりとも居たくない、そんな態で、彼女は階段を登って上の階へ戻っていく。

「…リノンさん…」
ロロナは言われた当人よりよほど泣きそうな顔でいる。
「平気よ。…それより」
ライルと、ティルバルトの姿が無い。
「洞窟です。二人でじゅうぶんだって。起きた時不安がるから、あたしは残るようにって、ライルさんが」

そう、と相槌を打って、リノンは少し眉を寄せる。
洞窟の中で、いったん妙な何かを発見したとして、それを放っておくことが、果たしてできるだろうか。
勇敢な身の程知らずのストッパーを、傍らの弓兵が果たして請け負ってくれるかどうか。
関わりが浅いために、ティルバルトの人となりがよくわからないので、頼りにできない。

「まだゆっくり休んでください。何かあってもあたしがついてます!」
リノンの手を両手で包んで握り、そう意気込むロロナ。リノンは微笑み、そっと眼を瞑る。
「そうね。そうするわ。ありがと」

まだ身体に負担が色濃く残っており、目を閉じると睡魔に引きずり込まれるようだ。

(―――お前のことは、この里の者ならば、ティル様以外、誰であろうと、疎んじるであろうよ)

意識が現実から消える寸前、あの薬師の老婆が最後に放った言葉が、なぜか甦った。



作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har