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D.o.A. ep.8~16

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「死にたくなければ飛び出さないように」
警戒しながらトリキアスに並ぼうとした彼を軽く制し、大群とこちらを隔てる木々の間から、丸腰で躍り出た。

魔物はいっせいに、現れた赤毛の青年を認識する。
人間。餌だ。喉に喰らいつきたい。しなやかな四肢を引き千切って腹を満たしたい。身体をめぐる血からは美酒のような匂いがする。
男はとにかく、ひどくおいしそうに映った。
だが自分たちの数の多さも知っていた。みなで分けるには獲物は小さすぎる。ならば早く行かねば。同胞は敵である。
我先にと、魑魅魍魎どもがたった一つきりの獲物に飛びつき始める。

「BlutesOrkan(紅き暴風)」

トリキアスの右手が軽く持ち上がる。

瞬間、ごう、と突風。

その手の平より出でた紅く光る風が、トリキアスを中心に吹き荒ぶ。
広がっていく。
触れたところから切り裂かれ、巻き上げられ、切り刻まれていく。
よく見れば風ではなく、高速回転する無数の緋色の凶器だった。

密集した化け物どもは、己の身に何が起こったのか、ついぞ理解しないまま絶命していく。

―――そうして、あれだけの数を誇った群れは、3分を待たずして全滅した。

風がやむと、巻き上げられていた、もと・魔物が、もうどれがどれだか区別のつかなくなったぐちゃぐちゃの肉になって降ってくる。

「………」

圧倒的だった。殺戮というより、むしろ効率の良い、清掃を見ているようだった。
「終わりましたよ」
何事もなかったかのように、トリキアスの顔には普段どおりの微笑が浮かべられている。

洞窟の周辺は、ちょっとした自然災害の跡のような惨状だった。
ぼたぼたと雨のごとく降ってくる肉片のおかげで、出て行くのがまだ躊躇われてしまう。
「さっきのって、魔術かな…?」
隣で、呆然と目を瞠るティルの袖を引き、小さく問いかける。彼はしかし、無言だった。
肉片が全て落ちたのを確認すると、木の影から抜け出す。洞窟の内部から何かいるような気配を感じるが、恐れているように出てこない。

「では、洞窟探検といきますか」
くすりと笑い声。
ライルはこの男に、怪しさ、恐れとともに、頼もしさも感じ始めていた。
彼がいるなら、この先何がいようと心配する必要はないだろう、と。



作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har