D.o.A. ep.8~16
世の中に、そんな職種があるらしいことは知っているが、そう自ら名乗る人間と会ったのは、もちろん初めてのことだ。
(殺し屋って…あれだよな)
お金次第で、縁もゆかりもない人間をその手にかける。
そんな男が、隣を歩いていると思うと、ぞっとしない。
不吉な感じを読み取った自分の直感は、あながち外れていなかったのである。
しかし。殺し屋を雇うということは、誰かを殺してほしい、それ以外の目的はあるまい。
魔物だって倒すことは殺すことには違いないが、そういう場合はどっちかというと、軍とか傭兵などを雇うのではないか、と思う。
殺し屋の対象は、あくまでも誰か。獣や魔物ではない。
勝手にそんなイメージを抱いているだけなので、実際はお金を積まれたら、何でも殺しているのかもしれないけれど。
彼の横顔をこっそり窺う。
殺し屋ですと言われれば、なんとなくなるほど、と頷ける、そんな堅気でない雰囲気は、あった。
うつくしい面差しには、されど温かみがなく、人殺しに良心を痛めるようには、-―――見えない。
「…何か?」
最初から、ライルの視線を知っていたであろう彼は、わざとらしく気付いてみせた。
「な、なんでもない」
道案内なので、必然的に先頭を行っていたティルが、不意に立ち止まる。片手を軽く伸ばしたので、彼らも歩みを止めた。
「なに?」
「これ以上進むと、気付かれる」
「あ、もう?」
今更だが、彼の五感、第六感は並外れている。逃げながら、他人に罠を知らせるところからかんがみても、尋常ではない。
まだライルには気配すら読み取れないが、彼の感覚は「いる」ことのみならず、距離までとらえているようだ。
「この先が洞窟の入り口であると?」
「…そうだ」
「ならば止まる必要はない。違いますか」
トリキアスは、彼の横を通り過ぎていく。
「怖いなら、私が片付けてしまうまで、ここに身を潜めていればよろしいかと」
そんなことを振り向きもせず言い放たれては、こちらとて意地があるというものだ。
「行くよ」
口を引き結び、トリキアスを早足で追う。
さくさく土を踏んでいくと、さすがにライルも唸りを、殺気を、耳や肌で感じ取るようになった。
おびただしい魔物の群れのそれに、改めて異状を視認する。
作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har