D.o.A. ep.8~16
扉が開き、中からライルが出て来る。
ティルバルトは振り返った。目が、彼女を案じている。
「大丈夫だ。解毒できるってさ」
「そう、か…」
ただ解毒のために衣類を脱ぐ必要があるらしいので、男であるライルはどうしてもその場にいられなかったのである。
「ありがとう。お前がいなかったら今頃は…」
言ってから、自分でひやりとする。もし彼がいなければ、リノンは死んでいたのだ。
「…身内の過失で知り合いが死ぬなんて寝覚めが悪すぎる」
ティルバルトは顔を背ける。
その言葉が仮に照れ隠しでなかったとしても、あれだけ愛想の悪かった彼の中で、自分たちは、「死なれるくらいなら頭を下げることができる」ほどの存在ではあるのだ。
ライルはなんだか嬉しくなってしまった。
「身内か。じゃあここが、お前の故郷なんだ」
道理でヴァリメタルのことも知っていて、森の進み方に詳しかったはずだ。
「狭苦しさと古臭さにかけたら右に出る場所はないだろうよ」
しかし、彼の顔には、故郷に帰ってきた喜びや安堵感などはいっさい表れていない。
むしろ逆の、嫌悪すら浮かんでいる。ライルは首をかしげた。
「―――できれば二度と、戻って来たくなんてなかった」
いっそ憎々しげに、吐き捨てる。
そのまま、その場から離れようと踵を返した、のをライルが呼び止めた。
「あのさ、あの二人、ティルって呼んでたろ」
「だから?」
「うん。だから俺も、呼んでいいかな。お前の名前、長くて言いにくいよ」
彼は少し眉を寄せて黙る。
やっぱり、ダメか、浮かれて馴れ馴れしいとか思われたかな。
口にしたことを後悔しかけ、やっぱり今のナシ、そう訂正しようとすると。
「…好きにすればいい」
素っ気無い、肯定が返ってきた。
作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har