D.o.A. ep.8~16
Ep.10 森
ポカン、として突っ立っているエルフ族が三人。
「そんなことより!」
彼らを現実に引き戻したのは、ライルのせっぱつまった声だった。
「この罠は、あんたらが仕掛けたのか!何てことしてくれんだ!」
幹に突き刺さった針と、ぐったりとしたリノンを示して、批難する。
さすがに彼らは血相を変えて駆け寄ってきた。浅い呼吸を繰り返す身体が、びくりとはねる。
「解毒できるか」
リノンの容態を見ている彼らを、ティルバルトが窺う。
「ここじゃ、無理だ…里へ帰らないと」
深刻な面持ちで一人が言う。
ならばその里とやらに早く連れて行ってくれ、とライルは請うが、迷うように目線を逸らされた。
「…俺からも、頼む」
「ティル…」
頭を下げている。この男が。
驚いたのは、ライルらも、エルフ族の二人も同様だったらしい。
「…わかった。ただし、誰にも口外しないでもらいたい」
ライルとロロナは、その言葉に深くうなずいた。
リノンを背負い、二人について足を進めていく。
一分一秒でも惜しむ身に歩きづらい道が続き、弱々しい息遣いばかりが気がかりで、ライルは唇を噛んだ。
やがて、木漏れ日が先までより明るい場所に出る。
先の尖った柱のような木が並べられたかたちで、まるで砦のように囲んでいる中に、彼らの里とやらはあるらしかった。
「ヴァリムというんだ」
どこからかベルを取り出すと、澄んだ音が鳴った。砦の入り口が、持ち上がっていく。
こうして囲って外界からの侵入者を防ぐのだろう。とはいえ、こんな森自体、誰も入ってこないだろうから、獣や魔物に対するものに違いない。
入り口を守っていたらしいのもやはりエルフ族。彼らは二人、そしてティルバルト、そしてヒトであるライル、リノン、ロロナを見てハッとする。
「緊急事態なんだ。俺たちの罠の毒針にかかってる。言いたいことはあると思うが、黙って通してくれ」
「そうか…歓迎はできないが、まあ、入ってくれ」
戸惑いを隠せない様子で、しかし了承はしてもらえた。彼らに従って入り口を潜る。
中は、全ての建物が木でできているということ以外、普通の小村と変わりない。
見ることも珍しいエルフが、ここでは普通に生活している。
「薬師の婆さんの家はこっちだよ」
リノンを背負いなおして小走りで従う。道行くエルフ族から、奇異の視線を浴びまくるが、気にしている余裕はない。
「もうちょっとだから、がんばってください」
ロロナの励ましに、リノンは薄く目を開けた。
作品名:D.o.A. ep.8~16 作家名:har