夢と現の境にて◆弐
「…何」
「いや、なんかお前がああいうの得意だとは思わなくて」
俺が正直な感想を述べると間宮は首を傾げながら「というか」と言い出す
「ゲーム好きなんだよ。どうやれば勝てるとかいいとか。そういうことに関して頭が働く、らしい」
まるで他人事のような台詞に半分呆れた。しかし、そう言われてしまうと確かめたくなる。盤上系の奴は出来るのか、と尋ねると一応と返された。これはやるしかないだろう。
俺は急いで部屋へと戻ると押入れから将棋や囲碁、オセロからチェスまで色んなものを取り出した。後ろで「おいおい…」と驚く声が聞こえる
「こんなもん…なんでそんなにもってんだよ」
「暇なんだよ、家にいるとこういうのしかすることないから」
あったあった、と手にしたのは人生ゲーム。これは勝負運が必要だが。
俺と間宮はまず将棋からやり始めた。何手か打ち合った後、間宮が「なぁ」と声をかけてきた。
「お前の話聞いてて思ったけど、あんなにリアルな夢、見てんのか」
「…ん―…、場合によるけど大体な。聞くほう側からしたら疑いたくなって当然だと思う。俺だって最初こんなの信じてなかったし」
そう、信じてなかった。これは、唯の夢なんだと
「いつから、予知夢だって気づいたんだ」
―――ドクンッ
「…狭霧?」
俺は手が止まっていたのだろう。というより思考も動作も止まってしまっていた。俺がこれを予知夢だと気づいたのは、その切欠は…
「わ、悪い」
手で顔を覆いながら謝る。言えない、まだ言えない…これは
「狭霧」
呼ばれたかと思えば手を握られた。そこでハッと意識が帰ってきたかのように視界に間宮を捉えた。自分の身体が、震えていた。間宮もそれに気づいているのだろう、心配そうな顔で覗き込んでいる。
「聞いて、悪かった。言わなくていい」
静かな落ち着いた声でそういわれれば、俺は小さく頷いた。身体の震えも少しずつ収まっていく。これは、謂わば自分のトラウマだ。握られた手を力の限り握り返す。一生自分に付きまとう、忌まわしき記憶だ。ずっと忘れられない、ずっと思い出してしまう。これは
「…怖いか」
そう、言われた。顔を上げ間宮を見る。今はもう大分落ち着いてきているが、これを怖いものかと聞かれれば答えは決まっている。俺は目を伏せてしまいながらも素直に、頷いた。最近、少しずつだが間宮に自分の気持ちを言えている気がする。いつも俺からではなく間宮が気を遣って尋ねてくるのだが…それに助かって、救われている自分がいる
「前みたいに」
「え?」
思わず聞き返すと、間宮は意地悪そうな顔で笑って
「前みたいに、抱きしめてやろうか」
「…阿呆っ、いらんわ」
俺は慌てて手を離した。冗談だと分かっていても顔が熱くなってしまう。こいつのからかいにいつも弱い自分にほとほと呆れる。その後、俺たちは遣り掛けの将棋をし、夕方ごろになって間宮は自転車に乗って帰っていった。この数週間、あいつを見てきたつもりだが今一つかみ所のないあの性格はなんなのだろう、と走り去る背中を見つめながら思う。そして、自分はそれをどう思っているのか。
…だけど今はまだ、それを知らないほうがいいのかも、しれない