夢と現の境にて◆弐
なんとなく、あいつの反応を見て悟ってしまったことがある。
何気ない俺の言葉に固まってしまった狭霧はどう見ても様子がおかしかった。しまった、禁句だったのかと内心焦りながら俺は咄嗟に手を握った。それは酷く冷たく、そして震えていた。思い出すことも阻まれる、そんな記憶だったのだろうか。
これまで細心の注意を払ってきたつもりだったが、どうやら一番の根源は予知夢というものを認識した事について、とみた。今考えてみれば簡単なことだ。予知夢と判断するには、その夢を見、その夢で実際見た事が起こり、それを見たということに繋がる。そして、それが誰だったのか。
そこまで考えて俺は頭を振った。確信のないことだ。勝手にそう決め付けるには早い気がする。今はまだ、そのことには触れてはいけない。むしろ、俺から聞いてはいけないことだ。狭霧から、話されることがあるかどうかは分からないが。
俺は待つことも大事なことだと、自分に言い聞かせた。
事件の打ち合わせが終わってから数日間、暇な時間は狭霧と囲碁やオセロなどのゲームをした。手加減するなと言われたので普通にやっているのだが、毎度毎度狭霧が負け、うあーとか嘘だろぉとか嘆きながらもう一回!と指を突き立ててきてもう一勝負する。ゲームをやるよりも、それを見るのが面白い。
「お、俺の今までの家での修行はなんだったんだ…」
「学校いかないで修行してたのかお前は」
「そう言える程やってたんだよっ、くっそ、なんでそんな強いんだよ…」
そう悔しそうに呟きながら何度目か分からないもう一回!を言う姿に思わず笑ってしまう。負けず嫌いなのはいいがさっきから同じ手順が多い。頭は偉いのにな、とそこにも可愛らしさが窺えて自然と頬が緩む。時々悪戯したくなる衝動に駆られてしまうところから自分の理性もまだ脆いものなのだな、と内心苦笑した。
その日の夕方、狭霧の携帯に連絡が入った。佐々部さんからだ。
内容は計画通りに、しかも被害者ゼロで解決したという知らせだった。狭霧は驚きの表情を見せたあと嬉しそうにやったな、と笑いかけてきた。こういう笑顔は初めてみたので一回まじまじと見てしまい、な、何だよと狭霧が怖気てしまった。いや、上手くいってよかったなと呟くとああ、とまた安心の笑みを見せた。
「それにしても、お前本当にゲーム強いな」
狭霧は感心したように呟くとまるであれみたいだ、と言い出した。
「昔の軍配者みたいだよな、チェスとかパトカーの待機場所とか的確だったし」
軍配者、か。成る程、言われてみればそうかもしれない。
「それなら、お前の夢と俺の軍配者としての腕があれば、無敵だな」
そう言うと、狭霧は小さくはにかんでそうだな、といった。
しかしまさかこれが本当に無敵のタッグだと気づいたのは、俺たちが夏休みの間何件かそうして解決してしまった後だった。