夢と現の境にて◆弐
抱きしめていた腕の力を抜き、軽く狭霧の肩を掴んだ。軽く自分の身体から放して狭霧を見た。涙で濡れ、赤くなった顔が俺を見上げる。その合間にも嗚咽は止まらず、苦しそうに息をしていた。…何か、泣いているにしては様子がおかしい気がする。
「お前…、なんか飲まされたのか」
身体も異常なほど熱いのは、まさか媚薬、のせいではないだろうかと察した俺は狭霧にそう聞くと頬に触れた。涙を拭ってやる。狭霧は猫のように瞼を閉じた後、濡れたままの眼でまた俺を見た。それは、あまりにも艶姿で俺は思わずぐっと唾を呑み込んでいた。いけない、本当に、理性が。俺は視線を逸らすとまた狭霧を抱きしめようと頭の後ろを掴んで引き寄せようとした。が、狭霧は俺のその腕を掴んでそれを拒んだ。驚いて狭霧の顔を見る。それは、まだ何か助けを求めているような顔だった。どうした、と聞く前に狭霧がもう片方の手で着物の裾を下へ引っ張っている姿が眼に入った。
何を示しているのかは見て、すぐ分かった。だけどどうするべきか俺は悩んだ。まさか俺がやってやるわけにはいかない。さっきの奴と同じになってしまう。少なくとも狭霧が思っている限りではそうなると思った。だから俺は、「一人でできるか」と言いながらトイレにいこうかと促した。でも狭霧は動かない。いや、動けないのか。しかしこのままではいけないだろうと俺が困っていると、狭霧が小さな声で「なんとか…なんとかして…」と苦しそうに呟いた。それは荒れた吐息と共に言われた言葉で俺の理性はその時、半分崩れてしまった。
「…ヌいてやろうか」
あまりにも簡単に出てしまった言葉に、俺はそんなに我慢していたのかと自分に問いただしたい気持ちで一杯になった。しかしその返事を心から待ちわびている自分もいることに気づいて呆れてもしまった。だけど、それほどまでに狭霧が欲しい。そういうことだった。狭霧は俺の言葉に暫く黙って俯いていた。やっぱりいやだろうな、と俺が考えていると、不意に顔を上げた。その顔に、俺は目を見開いてしまった。驚いてしまった。
恐怖が窺えない。迷いも受け取れない。ただ、覚悟したような眼に俺は射止められた。
しかし、その合間は僅かにしかなく。俺は思うより早く吸い寄せられるように狭霧の身体を倒していた。下から狭霧が一瞬驚いた顔をした後、恥ずかしそうに顔を逸らした。その仕草にゾクリと身体が疼く。俺は念のため「嫌だったら言えよ」と忠告してから狭霧の首筋に鼻を摺り寄せた。「ん…」と呻きながらの返事を首を反らしながら狭霧が言う。もう我慢がならない俺は片手で狭霧の太腿へと触ると静かに足の間のものへと滑らせていった。
「あっ、…ぅ…んぁ」
狭霧の身体が一瞬跳ねる。その後は身を捩じらせ快感に耐えるように腕で顔を隠していた。余計なところは弄ってはいけないだろうか。そう思っても勝手に手が動いた。もう片手は狭霧の脇から胸を彷徨い見つけた尖りを指で押しつぶす。痛いように弄くっては優しく撫でるように。下も同様にそうして動かすと狭霧は鼻から抜けるような甘い声で喘いだ。本人は一生懸命堪えようと唾を飲み込んだり、息を吐いたり。そんなことをしていても、俺は無理やりにでも声をださせるようにタイミングをあわせて狭霧を追い詰めた。意地が悪いことはわかっている。だけど、止められない。
そうしていれば狭霧が腰を浮かし始めた。限界が近いと知った俺は更に手を早めた。イった姿を見せてくれとでもいう風に目尻を舐め、ぐっと手に力を込めた。「ぁ、あっ」と大きく息を詰めた狭霧がビクビクと身体を震わせた。意味もなく頭を振る姿にもそそられる。絞りだすように弄った後、狭霧のもので濡れた手を見た。ああ、本当にやってしまったと思っても、本心では後悔はなく、寧ろ嬉しがっていた。
狭霧は高揚とした顔で天井を見つめていた。が少しずつ我に変えると俺を見、また視線を逸らした。そして足を閉じようとしたので、俺はそれを止めた。狭霧が驚いて俺を見る。が、分かってるだろう、というように俺がまたそれを触れば、切なそうに顔を歪めて身を強張らせた。一回で終わるような衝動ではなかった狭霧の欲望に俺は身を屈めて口をつけた。「ひっ」と息の呑むような声が聞こえたがそれに構わず続けた。こんなことまで出来てしまう自分に一番自分が驚いている。嫌悪感を感じていないのは多分、こいつだからだろう。
「は…あっ、ぁ…ま、みや」
上半身を少し浮かせた狭霧が此方を見た。いやだ、と口で言っているのが見える。それでも俺は放さなかった。どうみても嫌だと思っている反応だと思わなかった。いや、俺の独りよがりなのだろうか。そう考えても止まれない。舌で括れをなぞれば狭霧の足が小刻みに震えた。「も…、む、り」と涙声で狭霧が訴える。早いのは薬のせいか、それともこれに慣れてないからか。ここで出させてしまうのが少し残念に思ってしまった俺は根元を抑えしつこく舐め始めた。双球も揉み込み弄くっていると狭霧が驚いたように身体を跳ねさせた。水音と狭霧の荒い息が更に部屋に響き渡る。
「ひ、ぅあっ…ん…ぁ、…ゃ、も…ぅっ」
狭霧の声が懇願めいて聞こえてきたあたりで、俺は抑えていた手を解いた。唇を軽く舐めた後またそれを口に含んで吸い上げる。「まっ…!」と小さく悲鳴が聞こえる。恐らく待ってといいたかったのだろう。しかしその声は到達した快感により甘い嬌声へと変わる。糸を引くように出される狭霧の精液と声を堪能しながら全て受け止めるように嚥下する。
身を起こすと、ぐったりとする狭霧が眼に映った。後は風呂入れて寝かせてやればいいか、と思えば狭霧を半分起こし、背中に乗せた。「風呂いくぞ」と言うと、まだ熱が冷めないような眼をしながら狭霧が小さく頷いた。