ばーさーかー・ぷりんせす!第3話
7.
魔鎧から瘴気が発せられる。
「どぉおおりゃああぁ!」
巨大な斧が舞い、鉄拳が唸り、炎が撒き散らかされた。
ズシャ! グォ! ぶわっ!!
「ギョギョギョギョ〜!」
身近な魚人が刺し身になり、タタキになり、焼き魚となった。さらなる追撃をしか
けようとした時。
「おおい、おらたちも加勢するだあ。」
遠くからジンベーの声が。ミックリー・シュモークたち三人の漁師を筆頭に村人た
ちが大勢やってきたのだ。
「え? い、いやあ〜〜っ!」
へなへなへな。善意ある人々の行動に、フロリーナは身がすくみ動けなくなった。
彼女のトラウマである。魔鎧セバスチャンは善良な人々には見えない『真逆の裸の
王様現象』を起こす。近くには浅瀬の海、隠れる場所すらない。
「うん、どうしたんだい? 急に動かなくなってさ。まあいい、マーフォークよ、
やっておしまい!」
ゴーゴンには姫は魔鎧の姿にしか見えない。彼女が人目を極端に嫌がる理由に気づ
かないのだ。
魚人族が襲いかかってきた。
「くそ、一難さってまた一難か! こんなんだったら姫の入浴も覗いておきゃ良か
った…」
ぽく。
軽くギャリソンの制裁が入り、ラッキーは気絶した。
「ふむ、入浴か…そうですな、湯気を作れば。おおいセバス、海辺で火を吹きなさ
れ」
ギャリソンの声に魔鎧が応える。
「ぎひひひ、了解。姫さんよ、オレ様を海に向けな」
ブォオオオオッ!
蒸気が辺り一面を覆う。うっすらと影が見える程度の白い霧。姫も理解し、涙をぬ
ぐい立ち上がった。
「うわ~、真っ白です~」
ルーシーものんびりと驚く。これでは互いの姿も影のようにしか映らない。
「あ、ありがとう、じい。行きますわよ、今度は容赦しません!」
「ジャスコゥの皆さ〜ん、フレア様はぁ、こわ〜い状態になりますので近寄らない
ほうがいいですよ〜」
ルーシーが声をかける。蒸気でまわりも見えない漁師たちは躊躇し立ち止まった。
「おお、ルーシーちゃんか! んでも、お嬢さん一人じゃ…」
「わしらも協力するだで」
ミックリー、シュモーク、ジンベエたちの声が霧の中に届く。しかし。
「ほーっほっほっほっほ! こんな腐れ魚や外道の魔女なんて、わたくし一人で充
分。その勇気、明日からの自らの漁と戦いにお使いなさい!」
口調が変わった狂戦姫にギョッとして漁民は引き下がることにした。
「…わかっただあ、おらたちは明日の漁の準備だ。おらたちの戦いの!」
「お嬢さんたちー、負けねえでくんろ」
「死なねえでくんろー!」
漁師たちの声にフロリーナは通る声でええ、とだけ返した。
「はん、やせ我慢していいのかい?」
霧も薄れ、漁民も去った後、ゴーゴンが皮肉混じりに問う。
「あの方達からは信頼と勇気を分けていただきました。これ以上何が必要でしょ
う!」
ルーシーが祈り、マリアがありったけのアンチマジックをかける。魔鎧が吼え、
ギャリソンはのびたラッキーを引きずり安全圏へ向かう。
「人を信じず、欺き傷つけるあなたは、魔術など使わなくても人外の魔物に成り果
てたのですわ。いざ、浄化を!!」
「…つくづく気に入らない娘だねえ。魚人ども、八つ裂きにしな!」
ざぶんっ。
フロリーナは海中に飛び込み、急激に水温を上昇させる。煮魚になるのを免れたマ
ーフォークの残党はたまらず海上へ飛び出した。
「逃がしませんことよ!」
「ぎひゃひゃひゃ、いい感じだぜえ」
ぶんっ、ぶんぶんっ、斧を振り回す。
「うおおおおおおおっ、アックス・ブーメラン!!」
ギュララララララララララッ!
大回転し、振り投げた巨斧は弧を描き飛ぶ。
「ギョ〜〜〜〜」
ズガガガガッッ! 逃げ出したマーフォークを切断し、ゴーゴンの手前で反転、残
りをさらに切り刻んだ。見事な三枚下ろしである。
「く、しょうがないね。まだ魔力が足りない。撤退だ。」
睨み殺しかねない憤怒の形相で、蛇の魔女は闇に消えていった。
作品名:ばーさーかー・ぷりんせす!第3話 作家名:JIN