ばーさーかー・ぷりんせす!第3話
8.
戦いすんで。
「メロディちゃーん、ゴーゴンは逃げちゃったよ。もう自由の身だよーん。どこ
だー…」
ラッキーは残された彼女を探した。しかし、そこにいたのは…
「い?」
ぴちぴちと尾鰭が浅瀬をたたく。浜辺に倒れていたのは、蒼く輝く鱗に包まれた下
肢をもつマーメイド(人魚)であった。
「キ? チチチチ、キュウゥ。」
しかしながら階級は低い種族なのだろう、人魚姫は人語を解することも発すること
も出来なくなっていた。
「え、え、えええー!?」
ラッキーにキスをすると、人魚は海に帰っていった。
「――おそらくあの魔女が人化の魔術をかけ、操っていたのでしょう。恐るべき奴
ですな」
「本当に。ゴーゴンも"黒い牙"だったのかしら。だとすれば奴らの狙いは…」
「人界の征服…まさか、三界までも支配しようというのでは?」
ギャリソンと姫が深刻な話をしているとき。
「ああ、メロディちゃん、下半身が魚だなんてー!」
はらほろひれはれ。傷心のラッキーは別の次元の苦悩に身を焼いていた。
「しかたがないですわ。マーメイドは単体生殖と聞きますし、種族が違いますも
の、ね」
フロリーナが慰めようと近寄った。
「ぐずぐず、姫ぇ〜…え?」
「?」
ラッキーが目をこする。目の前には鎧姿のフロリーナがいる、はずである。とこ
ろが。
「え、え、え”!」
みるみる鎧が透けだし、姫は一糸まとわぬ姿となった。
「き・き・きゃああぁー!」
皿のような目に鼻血を滝のように噴出したラッキーに、姫は全てを理解した。
* * * * *
「一瞬ですが、お肌を見てしまったようです。姫を裏切らずマリアを助け、良い人
になりましたからな。神様からの御褒美だったのでしょう。ま、すぐ見えなくなっ
たようですが」
ギャリソンが淡々と言う。
「姫様ぁ、かわいそうです〜」
「わたしもナイスバディを見られちゃったけど、ま・いーんでないかい。キャハ」
ルーシーとマリアが治療の用意をする。無論、これから瀕死の目にあうカバン持ち
のためだ。
「今見たことを忘れなさい! 忘れて死ぬか、死んで忘れてしまいなさーい!」
ぼかぼか、がすごき。泣きながらラッキーを殴るフロリーナ。
「いやだー! 死んでも忘れるもんかー! 女体の神秘やー!」
海からは微かに歌声が聞こえる。夕闇の迫るジャスコゥの浜辺に、なかよく喧嘩
する二人がいた。
「びええぇーん!」
<おしまい。>
作品名:ばーさーかー・ぷりんせす!第3話 作家名:JIN