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D.o.A. ep.1~7

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「―――十人の神々は、人々から「大十術師」と呼ばれるようになります。
今もきっと、世界のどこかで、私たちの営みを、見守ってくれているのかもしれません。
そうして、さらに幾たびの争いを経て、今のがあるのです。…それでは、今日のお話はここまで」

語り終え、聴衆、とはいえぬささやかな人々を見渡す。
老人、子供、若い妊婦、ついでに猫が、椅子にかけて、静かに聞き入ってくれていた。
話を聞きに来てくれる顔触れは、大体いつも決まっていて、大抵が近くの村の孫連れ老人世代である。
若者にはあまり興味を引く話ではないのはわかっているし、特に不満もないが。

「大十術師(彼ら)」の聖像を背に、おごそかな教会で、穏やかに語る午後。
そんな時間が、とても好きだった。

「シスターリノン、質問!」

呼ばれ、ふと顔を上げると、小さな少女が腕をぴんと伸ばして挙手している。
このような幼さで、真剣に突っ込んでくるとはなかなか将来が楽しみな子だと思う。
ほほえましさに口元をほころばせながら、語り部―――リノンは、応えた。

「はい。なんでも訊いて」
「あのねぇ!どうして大十術師さまは―――――」

と、ポニーテールをはねさせ、元気良く立ち上がった少女が、そう問いを口にした直後。


「―――――ライル=レオグリット、ただいま帰還いたしました!」

蹴破るかのごとき激しさで開け放たれた扉から静寂を破る声。
リノンの明るい緑の髪が吹きぬけてきた風に揺れ、茶色の瞳が声の主へ向けられる。

「ただいま!リノン!」

年の頃15、6の、活力にみなぎるしなやかな少年だった。
その背には、リノンも顔見知りの老女を負っていて、そのせいで手が使えなかったのだと思い至る。
後ろからは心配そうに老婆の様子うかがう、孫の少女がついてきている。

「入るなら静かに入って!!…それで?どうしたの」

彼女は眉を吊り上げてライルに勝るとも劣らぬ大きい叱咤を飛ばす。
が、背負われている老女を見ると、すぐに駆け寄った。

「村の近くで、二人で魔物に襲われてた。足くじいたっていうから、送るついでに診てもらおうって」
「ライにぃはね、ばぁばとイリアのピンチにヒーローみたいに駆けつけて助けてくれたの、怒んないでね」
「責めないでやって。ライはあたしのために…」
「……。 まあ、さっきの無作法は不問にしたげる。じゃあ、ちょっと座らせてあげて」

長椅子に脚を伸ばして据わらせ、リノンは神妙な面持ちで脚に触れながら容態を把握していく。
やがて小さくうなずくと、集中のためにまぶたを下ろし、患部に手をかざした。
その手から淡い光があふれ、足の腫れがみるみるうちにひいていく。

シスターである、リノン=ミラファードは、この教会をたった一人で営む、住み込みの管理人でもある。
とこしえの昔、神々が与えたもう魔術のひとつ、治癒術(ヒーリング)を会得していて、それを頼って教会を訪れる顔も少なくはなかった。
治癒術は便利なので、使い手が他にいないわけではないが、彼女ほどの腕を持つ者もいない。

手品を眺めるようにぼうっと眺めていると、ものの一分たらずで捻挫は治癒された。
感嘆のあまり、ライルと孫娘二人でつい拍手をおくると、まわりからも控えめにあがった。
照れくさげに立ち上がり、リノンは両手を払う。

「よし、これでいいわ。でも今日一日は、念のためにあんまり動かないほうがいいかも」
「ありがとシスター!ありがとー!」
「はーい、どういたしまして」
「やっぱすごいなー。やっぱりリノンの腕はラゾー一、いや、ロノア王国一だ!」
淡い緑の眼を尊敬にかがやかせ、彼女の手を見つめる。

「…それにしてもあんた、なんか久々に顔見た気がするわ。一週間ぶりくらい?どうしてたの?」
「軍人でもないのに軍舎に泊まり込むなって追い出された。べつにいいよなー?訓練だってちゃんと付き合ってるし、時々おさんどんもしてるのに」
「そりゃそでしょ。いい加減自分ちがあるんだから、ちょっとくらい遠くてもちゃんと帰ってくるべきよ」

「あ、そうだ!さっき通ったらあの場所、すごいことになってたんだ。行くよな!」
そう、いまひとつ意味の伝わらない言葉を告げ、リノンの手を取り走り出そうとする。
「ちょっと!まだ質問が、お祈りが…」

リノンが抗議の声をあげる。
するとその質問の主である少女が椅子の背もたれにあごを乗っけて手を振った。
「いいよー!ライにぃはせっかちだけど、わたしはオトナなので、順番をゆずるのです!いってらっしゃいー!」
少女はにこりと笑う。となりではイリアが手を振っている。他の者も特に咎めることはないようだった。
リノンは申し訳なさそうに頭を下げ、

「ちょっと席を外しますね。皆さんゆっくりしてって―――きゃ!そんな急がなくていいでしょ!」
ぐいぐいと引っ張られて走り去っていく。

誰もが、騒がしい彼らの挙動を、微笑ましい一幕だとでもいうように、見送った。









着いたのは、小高い丘になっている村のはずれ。
ロノア王国領ラゾー村は、王国東端に位置するので、青い海が崖下に広がる。
そして、丘のてっぺんに林檎がたくさんなっている大きな樹がそびえていた。
ライルはリノンに、枝のそれを、もぎ取って投げてやる。

「見事ね。もう生ってたんだ。いつも思うけど、これ、本当に人の手が入ってないの?」
受け取って、リンゴの表面を撫でてから、大樹を仰いだ。
「ああ。誰に聞いても知らないって。好きにもらっちゃっていいだろ」

自分の分をむしりとって傍らに腰を下ろした。かじる。
それに倣ってリノンも歯を立てた。
毎年この時期に生るこの果実は、人の手がかかっていない割に、店に並ぶ物よりずっと甘酸っぱく美味である。

「ねえ、知ってる?いつも来てくれてるマリーさんの子供、遠くないうちに生まれるの」
「へー。じゃあ近々、見舞いにいこうか」
「ちょっと気が早いけど、明日あたり、一緒に行く?」
「いや、悪いけど明日は大事な用事が…」
「大事な用事って何よ」
「うーん。まだ、ヒミツなんだ。でもきっと驚くぞ」
「なによー、気持ち悪いわね、ニヤニヤして!」

そのとき、一陣風が吹き、二人の髪をなびかせた。

「ねえ。さっき、みんな、本当に嬉しそうだったでしょう。ライが帰ってきたからね。ずっと、ずっとみんなのこと、守ってね」
「ん、了解!」
「ならばよろしい」

元気のよい返事を聞き、満足げにうなずいて、上半身を倒す。綺麗な緑色の草が頬に心地良い。

「あ、そうだ。俺教会来る途中、キースさんに屋根の修理頼まれたんだ。じゃあ、お先に!」
「夕飯はビーフシチュー持って行ってあげる、楽しみにガンバって」
「う…、行ってきます!」

仰向けになって空を見つめる。
リンゴの木陰から漏れる木漏れ日に、目を細める。
この何事もない日々が、ひどく得がたいものであると、幸せに胸がつまって、彼女は微笑を浮かべた。



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作品名:D.o.A. ep.1~7 作家名:har