D.o.A. ep.1~7
猪に似た魔物が、今にも襲い掛からんとして黒の双眸に老女と、孫の少女を狙い定めている。
鼻息荒く嘶いたその魔物はその二人目掛けて突進してきた。
もうダメだと身を竦ませる老女。彼女の足はここまで逃げてきたので精一杯で、先程転んで足を挫いていた。
ギュッと目を閉じた。が、覚悟していた痛みと衝撃は来ない。
代わりに、前方でガン、と殴打の音。
すると、腕の中の少女が立ち上がって、魔物がやってくるであろう方向へ走り出した。
驚き、老婆は顔を上げる。
青い襟巻きをなびかせて立っている人物は、慣れ親しんだ少年で、安堵の溜息がこぼれた。
彼の足元には、気を失って横転している魔物の姿があった。
「ライにぃ、お帰りなさいっ!」
「ああ、ただいま。イリア」
駆け寄ってきた少女は、嬉しそうな声を上げて、”ライにぃ”抱きついた。
彼は何の苦もなく受け止め、少女の脇に手を差し込んで抱き上げると、くるりと回る。
「ん、どこも怪我ないな!よしよし、元気そうでなによりだ」
「助けてくれてありがと、ライにぃ!」
きゃっきゃ、と声を上げながら、イリアは頬を染めて腕を広げている。
五回転ほど回ってやったあと、彼女を地に降ろし、少年はへたり込んでいる老女の顔を覗きこんだ。
「ライ、ひさしぶりねえ…確か一週間ぶりじゃないかい? …それにしてもほんとうに、助かったわ」
「うん。ばあちゃんも無事でよかった」
「あ、でもね、ばぁばは足が痛いの!転んで紫なの!」
言われて、老婆は痛みを思い出す。
どうやら恐怖が痛みに勝ってしまっていたようで、紫色の足がじわじわ疼きだした。
「うわあ。歩くの無理そうだな。負ぶさりな、リノンに治してもらおう」
「悪いね」
「いつも世話になってるんだ。悪いなんてとんでもない。
でも女子供二人であんまり外うろうろしちゃだめだ。俺がいなかったら誰か男を頼ってくれな」
「イリアは子供じゃないよ。おつかいちゃんと手伝えたんだからね」
「ああ。そうだったんだ。イリア、えらいえらい」
頬をぷくりと膨らませる少女の小さな頭を撫で、老女に背を向けて屈みこむ。
確かな重みを感じると、ライルは少女の歩幅に合わせて、ゆっくり村へと歩きはじめた。
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作品名:D.o.A. ep.1~7 作家名:har