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目覚めるとベッドの中にいた。

知らない天井。明らかに自分の家ではない。
上半身だけ起こしてみる。
ベッドの横で、大男が椅子を持ち出して座り込み、こちらの顔を見つめていた。
意識が覚醒したことを知ると、人好きする笑みを浮かべてくる。

「起きたか」
「……だれ？」
「この国の武成王、ソードだ」

武成王ソード、と聞いて思い当たった。王国軍で最も強く、偉い地位の人間。
「武成王…。　兄ちゃんが言ってた…」
「…兄ちゃん？…それよか、大丈夫か？どっかおかしいトコ、ねえか？」
黙って首を横に振れば、ソードはそうか、と少年の頭を、大きな大きな手で撫でる。

「とんでもねえ目に遭ったな。王都から離れた小村は手の空いてる奴がパトロールしてるんだが、その甲斐もなくて…」

――その甲斐もなくて、とは。
途端、あのときの恐怖でなく、激しい、殺意と呼ぶべき衝動が生まれる。
父、母、姉の、物言わぬ屍と化した姿。
見下ろす男たち。家族を斬り刻んでいった、血も涙もない悪鬼ども―――！

「…殺してやる」
呟き程度の声。低い、恨みのこもった声。握った拳の中で皮膚が裂けた。
「殺してやるッ、あいつら！！絶対に許さない、同じ目に遭わせてやる！！何処にいるんだ！！」

ガバッと起き上がり、床に降りて駆け出そうとする。
だが、ソードが首根っこを掴み、暴れる小さな体をベッドに戻した。
目線を合わせた彼は、深い青の瞳でこちらの顔を覗き込む。

「なんで、なんで邪魔するッ」
「奴らを許せねぇのはわかる。だがお前が、その手を奴らの血で汚す意味なんて、ない」

力強い口調だ。こんな時じゃなければ、その声に安堵を感じるような。
しかし、今はむしろ、落ち着いた声が心をかき乱した。

「俺はッ、俺はあいつらを―――！」
「その力をお前は持っているのか？」

鋭く、胸を突かれた気分になった。
確かに、あの時一番力がなかったのは己であることは明らかだ。
家族の中でもっとも弱々しく震えていただけだったからこそ、最後まで生き残ったのだ。

「……うぅ…ぐ」
「それに、お前の仇は、もうこの世にいない。駆けつけた奴が始末した」
「じゃあ、…何をどうすればいいんだよ…わからないよ…」
少年は爪が食い込むほどの力で拳を作り、ひざに叩きつける。

「強くなれ。　強くなって…もうこんな事を許すな。
村に、大事な友達がいるだろう？大切な人だっているだろう。そういう人たちを、みんな守れるくらい」

「…俺が…、守る…」

――――強くなれ。
――――もう、こんなことを許すな。

その深い声音が、幼い頭に染み渡るように広がった。
目を閉じて、脳裏に緑の髪を持つ、優しい少女が浮かんだ。
少年の淡い緑の瞳に、強い光がやどった。

「お前、名前は？」
「ライ――、…ライル」


「――――いいか。　いつか…かならず誰よりも強くなれ」


「………」
「今日から、俺が、面倒見てやる」
「…おじさんと…一緒に、暮らすの」

「そうだ。お前を独りぼっちなんかにはしねえよ。今日から俺は、お前の家族…みたいなもんだと思ってくれていい」

言ってソードはライルの背中をぽんと叩き、部屋から出て行った。

その直後、たまっていた物が弾けたように溢れ出す。
家族はもう、いないという事実が、苦しい。息が、出来なくなる。
涙はとめどなく流れた。
家族の無残な死があまりに痛く、意味がわからなかった。



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