D.o.A. ep.1~7
ソードは、ライルでは両手でやっと持ち上がるであろう重りを片手で振りながら、椅子に座って書類を見ていた。
書類のたぐいはもう目にも入れたくないので、苦々しく顔をしかめると、ソードはニヤリと笑った。
「アレ、無事に済んだらしいな。ひとまずお疲れさん」
「もうあんなの無いよな」
「ああ、安心しろ。アレに比べりゃ報告書なんかお絵描きみたいなもんさ」
重りを足元に置いて、ソードは立ち上がり、壁に立て掛けていた細長いものを手に取る。それが何であるか、ライルは知っていた。
派手ではないが上質な装飾の施された、決して安物ではないとわかる一品。剣だった。だがそれは、ソードが手にすればお粗末に見えるほどの小ささ。
あまりにも不釣合いなそれは、無論ソードのための剣ではない。
「我が軍へようこそ。前々から言ってた、入軍祝いだ」
ぽい、と軽く投げられ、慌てて受け取る。確かな重み。今腰に下げているものとは質の違うそれに、なんとなく上等さを感じ取った。
「お前に合わせて作らせた、世界にたった一振りの特注品だ。可愛がってやれよ」
柄を握って鞘から抜く。美しい刃が夕日を反射する。さすが特注品、初めて手にしたにもかかわらず、使い込んだ方より手にしっくりくる。
「…ありがとう!嬉しい、すごく嬉しい」
感激して、身振り手振りで喜びを伝えようとするが、うまく表現できない。二、三度振ってみる。空を斬る音がまるで違った。
入軍祝いに特注品など、恐らく自分だけだ。優越感に浸ると共に、こんなに恵まれていていいのかと、小市民な心が気にする。
パチンと鞘に収める。まだ興奮冷めやらず、にやけが止まらない。
「ソード、俺…頑張る。これでみんなを守る。強くなるよ」
「贈った甲斐があった」
目を細めて頭を撫でてくれる。
「息子に特注の武器を贈るのが結婚以来の夢でな」
「そ、そうなんだ…」
ソードとセレス夫妻の間に子供はいない。事情があるそうだがライルは聞いていないし、訊いていいとも思わなかった。
それに、いないおかげで彼は、夫妻の愛情を一身に受けているので、なんとも言えない身である。
なかば鈍器と化していた古い剣を、新しい方へ下げかえる。
「そっち、どうする?捨てとこうか」
「とんでもない!家宝にするんだ」
「か、家宝か…もっといいの、やりゃ良かったな」
薄汚れたそれを抱きしめ激しく頭を振るライルに、ソードは呆れた。
「ま、そろそろメシにしよう。そろそろ行かんと冷める」
セレスが腕によりをかけた、自分など到底及ばない豪勢な料理と、幸福な食卓の余韻に浸りつつ、ライルは帰途についていた。
陽は完全に沈みきって、送って行こうかと提言されたけれど、女でもあるまいしと丁重に断ってウェリアンス邸を出たのが7時過ぎ。
それから食料品と調味料を買い込んで城下を出たのが8時前。
リノンもとうに帰宅している時間だ。
最後の突き放したような口調が気になって、なんとなく顔を合わせにくいが、ちゃんと帰っているか気になるので帰ったら会いに行こう。
彼が危険な目に遭うのが堪え難いのか、えらく反対されたけれど、立派に務めていればそのうち認めてくれるはずだと信じている。
リノンの機嫌を確かめたら、明日の朝食の仕込みをするのだ。集合時間は7時と聞いた。のんびりしていては遅刻してしまうから。
買ってきた材料を使って、あのビーフシチューを生まれ変わらせなくてはならない。
ハイレベルな料理の数々にさんざん舌鼓を打った後だからこそ、余計に気合も入ってしまうのだった。
作品名:D.o.A. ep.1~7 作家名:har