D.o.A. ep.1~7
Ep.4 午後〜帰宅
王国軍本部へ一歩入ると、待っていたかのように、見知った顔が数人、近付いてくる。
目当てはもちろんライル――ではなく、武成王であるソードだ。
ロノアの戦士の頂点とも言い換えられる彼は、兵士たちにとっては正しく、スーパーのつくヒーローである。
「ソードさん!お帰りなさい、お疲れ様です」
ちょっと城下に出て行っただけで、お疲れも何もないものだが、みなが敬礼して出迎えた。
「ああ。今日から入る新米を迎えにな」
そして、隣にいるライルには羨望と嫉妬の混じった視線が注がれる。
たかが新兵を、わざわざ武成王閣下がじきじきに迎えに行くなど、本来ならばありえない。
彼とソードが、父と子のような関係にあるからこそであるし、そのことを知らぬ者は滅多にいないが、羨ましいな、と思ってしまうのは仕方がなかった。
そんな視線の針から逃れるように、ぺこりと頭を下げる。
「ライル=レオグリット。今日からどうぞよろしくお願いします!」
ばしばしと背中を大きな手で叩かれて、ライルは咳き込む。
「まあ、こいつは前々からよく出入りしてるから、お前らの中で知らん奴はいないと思うが。
俺の目は一切気にせず、ビシバシしごいてやってくれ。ダナル、ヘクト、スティング、同じ剣士の先輩として頼むぜ」
「は、ハッ!喜んで!」
「しかし、ソードさんが手ずから仕込んだレオグリットに、我々が教えられることなんて、何もないかと…」
「そんなことはないさ。こいつ腕っ節はそこそこ達者にはなったが、礼儀が殆どなっちゃいねえ。
軍のルールってやつを教えてやりな。偉くなるのが夢らしいが、失礼な奴は偉くなれねえってな」
わしゃわしゃと髪をかき回す。乱暴なスキンシップはずいぶん前からやめろと言っているのに、改善されたためしはない。
「じゃ、俺は戻る。そいつのアレ、頼んだぜ。 …ああ、ライル、夕方になったらうちに来い」
ひとしきり兵士たちを見回し、そう言うと、ソードは去っていく。
彼が見えなくなると、敬礼をといた彼らは急に親しげな顔で、少し偉そうに肩をいからせて見せる。
「ま、お前は軍人としては素人だ。先輩のいうことはよく聞くもんだぜ」
「すぐ追い越してやるさ」
「そーいう態度はよくねえよ。もっとオレたちを敬え!」
「そうだそうだ。 …ところでさあ、お前の村の教会のおねーさん、一緒に来るの見たけど、今どこにいんの?」
「ダナル、きさま、職務中に抜け出す気か?許さんぞ」
「かてーコト言うない!おれにとってシスターは永遠の聖域ってやつよ、しかも治癒術士!ああ、癒されてえ」
「そんな先輩が尊敬しろだなんて笑い草だな、アインタイン」
「……リノン、軍人は好きじゃなさそうだったけど。今日から軍人、って言ったら反対されたし」
うっとりしていた顔に動揺の色が走る。
「う、ウソだあ!お前が軍人になって危険な目に遭うのがイヤってだけじゃないの?だってこの前会った時、おれのこと、キレイな笑顔で労ってくれたもん!」
「夢を壊すようで悪いけど、相当気が強い守銭奴だよ。短気だしすぐ手も足も出すし料理ヤバイし」
「うう、るさいうるさい!あの人は癒し系の聖女なんだっ、おれは何も聞かんっ」
耳を両手でかたく塞いで激しく現実を拒否するダナルに苦笑しながら、さて、と首と手首を回す。
「これから何すりゃいいの。訓練?」
「先輩には基本敬語!」
「りょーかい、これから何をすればいーんですか、先輩」
「そうだな、さしあたってやるべきことは―――アレ、だ」
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作品名:D.o.A. ep.1~7 作家名:har