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夢と現の境にて

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目が覚めるとそこは保健室だった。と、それよりも先に自分が見た夢の確認をしなければならない。忘れてしまえば誰かが死んでしまうのだ。そう思い頭を巡らせようとしたが…出てこない。

まさか、見なかったのか

珍しいこともあるものだと半ば訝しげに思いつつも身体を起こす。と、掛け布団がうまく持ち上がらない。なんだ?とよくよく視線を巡らせれば、そこには頭を垂らし座ったまま足を組んで眠る間宮の姿があった。

待って…たのか

寝起きでボンヤリとする思考の中、これは夢ではなかったんだな、と改めて感じた。が、そんな呑気ではいられない。確か自分がここを訪れたのは昼過ぎだったはずだ。窓の外を眺めればもう空は夕焼け色に染まっていた。嘘だろう、と我が目を疑っていると横で間宮が微かに身動きをした。

「ん…起きた?」

と、気だるそうな声をだしうーん、と伸びをした。首が痛むのか手で抑えながら俺の方を見て調子は、と尋ねてくる。そういえば大分よくなったきがする。平気だと応えると間宮は立ち上がってベットの端に置かれた、恐らく宿題を俺に手渡す。受け取ると俺はゆっくりとベットから下りた。速く帰らなければばあさまに叱られる。

「送ってこうか」

そう言う間宮の顔は窓から差し込む夕日でオレンジ色に染まっていた。本当は、なんでここまでするんだと、尋ねたかった。どうして協力したいだなんていったんだ、と

でも、それは今じゃなくてもいい気がした。きっといつだって聞ける事になると思った。だって俺は、こいつの頼みを聞き入れようとしているから。

「…頼む」

返事は無愛想ながらも自然とでた。よかった、言えて。そう思った自分も随分と恥ずかしい奴だ。照れたように顔を伏せてもきっと夕日とこの部屋の暗さで分かりはしないだろう。俺は衣服を整えて保健室を間宮と共に立ち去った。




昇降口をでると俺と間宮は並んで帰路を歩き出した。間宮は自転車で来たらしく、それを押すような形で歩いているのだが、そういえば家は遠いのだろうか。そのことを尋ねると、そんな気にするような距離じゃないといわれた。仮にも遅くなったら困るだろうと心配したのになんて素っ気ない奴だ。これはもうあの頼みごとも断るべきだろうかと、間宮の気の悪さに考えが揺らいだ。人付き合いがあまり上手くない自分にこんな奴相手にどう接しろというのだ。今更ながらに思った疑問に我ながら呆れ返ってしまった。

すると急に間宮が、お前は、と聞いてきた。へ?とマヌケな声を出せば間宮は苦笑しながらお前は徒歩で来るほど家近いのか、と横目で俺を見ながら言い直した。歩いて30分ぐらいだと告げると、だったら自転車使えよと呆れた様に言ってそこに立ち止まった。なんだなんだ、とこちらが困惑していると、後ろに乗れと自転車に跨りながら俺を呼ぶ。二人乗りっていけないんじゃなかったか、と俺が迷っていると、そんな優等生面してたらいつまでたっても家つかねーぞ、と少し意地の悪そうな顔で言われた。カチンと来た俺はづかづかと自転車へと近寄ると進められた後ろへと跨る。これでいいんだろ、と相手の顔を見れば間宮は鼻で笑った後自転車をこぎ始めた。上半身が大きく揺れる。落ちるっ、と思うと同時に間宮のYシャツを掴んだ。あ、危ない…こんなに危ない乗り物だったのか。それに気づいたのか間宮が前を向きながら腰に腕回しとけ、と言ってきた。腕を回す…。これでいいのかと、恐る恐る相手の腰に両手を回ししがみ付く様な格好になった。すると腕やひっつくような形になってしまう頬などから相手の、同い年とは思えない、逞しい体つきに気づく。…なんだ、これ。

妙にどきまぎしている自分に焦った。たかが男の身体で何を緊張することがあるのだろうか。だけど、自分はこんなの知らないのだ。同じ男でも俺はこんなに筋肉はついてない、背もない、肩幅も逞しい腕も自分には無い。途端に妙に恥ずかしくなってしまった。周りに見られているのではないかと思うと、思わず相手の背に顔を埋めた。ああ、お願いだから。誰も俺の顔なんか見ないでくれよ。

自転車で帰る帰り道。俺はただその事だけを祈っていた。



作品名:夢と現の境にて 作家名:織嗚八束