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夢と現の境にて

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間宮 於宝(マミヤ ヨダカ)は俺が出会った奴の中で一番変な人間だった。


この頃の暑さと、夢見の悪さで欠席続きだった俺は、休日に宿題を取りに来いと先生に命じられ、いつもよりはまぁ、大丈夫だろうと自分の体調に高をくくり、のこのことこの灼熱の暑さの中、徒歩で学校を訪れたのだった。

しかし結果としては、俺が学校に着いた頃にはもう、死にそうなまでに力尽き、半分日射病になってるんじゃないかと疑えそうな状態にあった。ここまでひ弱な自分であったのかと思うと笑いが込み上げてきた。

だがこのままではいけないと、朦朧とした意識の中で猫の様に日陰を探しだし、休むはずがいつの間にか眠りこけてしまった。

そんな時、夢を見た。

いつものことだったので驚きはしない。いつも通り、誰かが死ぬ夢だ。
だけど何か違和感を感じた。

見慣れた景色だった。どこかで見た、と思えば、途中でこれは自分が今、寝ている場所に近いのではないのかとすぐさま気づいた。

男が一人、目の前に現れる。
これも、見知った顔だ。確か、クラスにいた…

ガシャンッ!

その男を思い出そうとしている間に、突如、上から何かが落ちてきた。それは男の頭部を直撃し、男はばったりと力なく倒れた。

俺の視点は切れ代わり、その男が死んでいるという姿がありありと見えるように、全体を映し出した。男の頭から鮮血がゆっくりと広がっていく―――

―――ああ、死んでしまった

目を瞑りたい衝動に駆られても、所詮は夢の中
目で見ているわけではない、目を逸らすことも逃れることも、出来ない

だが、現実では今この男は生きているのだ
この場面に遭遇できたら、もしかしたら、助けられるかもしれない…

そう思っていると意識が白く染まり、夢から解放されていく。目を開ければ、夢で見た景色。不意に横を向けば、夢で見た男

まだ夢をみているのか?……いや、違う!!

俺は考えるより速く無我夢中で男目掛けて走ると力の限り突き飛ばした。
それと同時に聞き覚えのある割れた音。
(…や、やったのか?)

乱れる呼吸を我慢しながらも、後ろを振り返り見てみれば、夢では男の頭に直撃していたはずの花瓶。今はそれは虚しく地面の上で粉々に割れていた。

「ま、間に合った…」
思わず安堵の息をついた。今思えばそれは自分の手で初めて人を助けた瞬間であった。いつもいつも夢の中で人は死んでゆき、今では警察などに情報を手配し、見つかり次第その何人かに注意を促してもらったり、犯人逮捕に繋がったりと助かる人もいるが、まさか自分で救出する日がくるとは思ってもいなかった。いや、奇跡に近いといってもいい。

こんな偶然もあるもんだと、助けた男…間宮を見、一応怪我がないか声をかけると、間宮は俺を暫く見た後、思わぬ一言を投げかけた。

「お前…なんでそれが落ちてくるって、分かった」

一瞬、何を聞かれているのか分からなかった。自分にとって夢で見たことは実際に起こって当たり前のことだった。しかし、それを現実で、あたかも前々からそうなることを知っていたかの様に行動すれば…おかしいことだった。そうだ、俺は、起きてから上を見て花瓶が落ちてくる所なんか目撃していない。それに、それを目撃したら目撃したで、見てから気づいても助けられない距離だった。起きてから男を見て、突き飛ばして、間に合ったと呟いてしまえば…どう考えてもおかしい。普通の人間だったら訝しげに思って当然のことだった。

すぐさま逃げようと立ち上がった。バレてしまっては後々面倒なことになる。唯でさえ最近、近くで預言者が現れただなんて噂がたってしまったのだ。顔を知っている人間ほど夢に出てくる確立が高い。そのためこの地域周辺の人を救済することが多くなっている。近所で広まってしまえば、近くに住んでるんじゃないかと感づく人間も出てくる始末だ。

これはやばい、と思っていたところを、間宮は俺の腕を掴んで逃さなかった。力強い腕で捕らえられれば、自分では逃げられないだろうなと無意識に思ってしまった。が、それよりも自分の身体が思うように動かない。ぐったりとする自分に小さく悪態をつき座りこむ。まだ回復しきれてない様だ。いつになったら普通に歩けるだろう。

作品名:夢と現の境にて 作家名:織嗚八束