夢と現の境にて
「構いません」
…そうか、そうだよな、やっぱ構わない…って
(―え?)
俺は俯いていた顔を上げると隣にいる男を見た。なんだって?今、なんて…?
ばあさまは暫く間宮を睨みつけた後「わたしゃ知らないからね」と俺か間宮かどちらに言ったのかわからない言葉を残し、家の奥へと消えてしまった。…もっと怒られるのかと思っていたが、予想外だ。
それよりも間宮だ。お前本気で協力する気なのかと口を開こうとすると、先に間宮が「って、言ったけどお前の了承得てないんだよな」と呑気な事を言った。得てないんだよなって…
後は俺次第ということか。一度は信じてみよう、信じてみたいと思った自分だが、ばあさまを目の前にしてその思いがいくらか消費されてしまった気がする。だけどその反面、間宮の方はというともう覚悟を決めた様子だった。じゃあ、俺はどうすればいいだろう
自分よりも背の高い間宮を下から見上げた。目が合うと、間宮はじっと俺を見た。悩んでも、しょうがないのかもしれない。踏ん切りをつけるのは、今だ。
「本気、なんだな」
「ああ」
軽く深呼吸をする。この先の展開なんて、関係なんて今、俺にわかるはずがないじゃないか。なんでも、かんでも試してみなきゃわからない。そう、開きなおって俺は口を開いた。
「お前の頼み、受けてやる」
俺の決意を込めて放った言葉を、間宮は静かに頷き、そしてあのときの様に微かに笑った。優しい笑顔だ。不思議と不安がなくなって心が温かくなるようなそんな笑みだった。
友達ともクラスメイトとも言いづらい関係になった俺達は、その場でアドレスを交換すると、メールのやり取りから訪ねる日を決めることにした。間宮も偶に家の事があるから、と言って小まめに連絡するというと自転車に跨り去っていった。
なんだか、すごい日になってしまった。
走り去る間宮の背を見つめながら思う。学校で寝たため身体の疲れはそんなにないのだが、頭が追いついていない様だ。まだ夢なのではないかと思うが、流石にここまで長くリアルな夢は見たことが無い。
ああ、でもこういう事を夢のようだ、というのではないだろうか…
一人、そんな事を考えていると急に変な気持ちになった。なんだろうか、この感覚は。今まで味わったことのない奇妙な気持ちに首を傾げつつ、俺はばあさまの待つ家の戸を開けた。