桃色伝説(仮)
「村の住人は48人。大人21人、子供26人、それと私。今、村の西門の場所にいるがあれは村の中心の櫓。だからここから櫓までが村の半径ね」
村の西門の前に居る零音は村の中心である櫓を指差しながらもそう言った。
手で日陰を作りながらも颯夜は櫓を見ていた。
「結構狭いんだな……」
「……村なんだし、これが普通の広さよ」
溜め息混じりの颯夜の言葉に零音は切り捨てるような言葉を返しながらも歩き始めた。
「櫓ってあの一つだけなのか」
「あれ以外はないよ。だって邪魔になるだけだしね」
颯夜は軽く相槌を打ちながらもつられて歩き始めた。
「なぁ、零音はこの村を出て行こうとは思わないのか?」
まるで時が止まったかのように零音は歩いていた足を止めた。
「鬼と戦えるぐらいぐらいなんだ。どこかの街とか都市からスカウトが来るだろ?」
零音は振り返り、颯夜を見た。
「……馬鹿?」
「へ?」
一度溜め息を吐くと零音は踵を返し、再び歩き始めた。
「早く出てってね。村の人が怖がっているから」
冷たく、低い声でそう言うと零音は歩く足を速めた。