桃色伝説(仮)
一難去ってまた一難。零音はそう思いながらも小さな少年の頭を撫でていた。
「気をつけて帰ってね?」
そう問いを投げ付けられた少年は大きく頷いた。
「うん! 零音姉ちゃんまた遊んでね。颯夜兄ちゃんもまた!」
少年はそれだけを言うと手を振りながらも夕日で照らされた道を走っていった。
零音は軽く手を振っていたがその手を止めると振り返り、颯夜を見た。
「いつまでこの村にいるわけ?」
「零音が一緒に旅に来てくれるまで」
「そう、じゃあ一生この村から出て行かない訳ね」
颯夜は横を通り抜けて家に帰る零音を追いかけるように歩き始めた。
零音は歩くスピードを上げた。
「なんで颯夜はそんなに私にこだわるわけ? 私以上に強い人なんていくらでもいる。違う?」
「まぁ、確かにな」
颯夜も零音との距離を開けないように歩くスピードを上げる。
「俺に剣術を教えてくれたのは初代の桃太郎なんだ。そのときに桃が言っていたんだ……」
颯夜は夕日と月が浮かんでいる空を仰ぎ見た。
「『人は守る物があれば強くなれる』」
そう思わないか、颯夜は最後にそう付け加えて視線を空から零音に移した。
零音は颯夜の言葉と同時に足を止めて、その場に立ち尽くしていた。
「俺が零音を選んだ理由だ。零音は守る者がある。違うか?」
「守る者……ね」
零音は溜め息を吐きながらも首を横に振った。そして再び道を歩き始めた。
「零音、明日の朝、出発しようと思う。この村に長く居すぎたからな」
一度だけ、考えるかのように目を閉じた零音だったが歩みを止めることはなく、歩き続けた。
月と星と夕日が見える空の下を。