桃色伝説(仮)
笑みを見せている颯夜を見た半鬼は顔色を変えず、向けられた刀を見ていたが不意に口の端を上げ、喉のそこからくつくつと笑い始めた。
「桃太郎……か。だったら――」
次の瞬間。
「何だと言う?」
半鬼の声は颯夜の後ろから聞こえて来た。
「若いな、桃太郎」
「……っ!」
颯夜は半鬼の攻撃を刀で防いでいるが、微かにその刀は振るえている。
半鬼は笑みを見せながらも颯夜の攻撃を弾き、颯夜との距離を取るとすぐに身をかがめた。
半鬼の頭上に零音が突いた刀がある。
「もう一テンポ早ければ殺せたのにな?」
驚きの表情を見せた零音はすぐに半鬼によって、腹を殴られ、吹き飛ばされた。
半鬼はすぐに立ち上がり、体の向きを変える動作を利用して颯夜によって刺された傷口の血を飛ばした。
「――っ!」
「目つぶしにも立派な戦略だろ?」
半鬼の目の前まで来ていた颯夜は半鬼の血が飛び込んだ目をつぶり、そして足を止めた。
「――颯夜!」
零音の声が颯夜に届いた瞬間、颯夜は半鬼によって足払いを掛けられ、地面に倒れていた。
半鬼は手を強く握り、拳を作った。
「終わりだ、桃太郎!」
颯夜に向かって落ちてくる拳。しかし颯夜が見たのはそれだけではなかった。
「――終わりはお前だ。半鬼」
つぶやく様な颯夜の言葉。同時に颯夜の耳に届いた音は肉を切る音。そして視界には、半鬼の胸から出ている刀。
「う、そだろ?」
それだけを言うと半鬼はゆっくりと颯夜の横に倒れた。
「本当だよ」
颯夜は体を起こすと零音を見た。
零音は深く、何度も呼吸をしながらも、刀を投げた姿勢のまま固まっていた。しかし、起き上がった颯夜を見るとすぐに走って颯夜に近寄った。
颯夜は服に付いた土埃を払いながらも立ち上がった。
「大丈夫か? 零音」
「私はね。颯夜は?」
「俺も大丈夫だ」
颯夜は零音に笑顔を見せると一瞬驚いた零音も笑顔を見せた。