桃色伝説(仮)
「見ているだけにしよかと思ったが……」
零音は体を起こすと声の主を見て、驚きの表情を見せた。
声の主は反りの方を下に刀を肩の上に置いた。
「仲間に入れる前に倒されたら意味ないじゃあないか……。まぁ、いいけどさ」
零音の前に声の主は立ち、刀を構える。
「桃園 颯夜。仲間候補を倒されては困るんで、参らせて貰う!」
「桃園だ?」
半鬼は体を起こすと声の主――颯夜を見た。
颯夜は笑みを見せる。
「まぁ、二代目桃太郎って所かな」
笑って答える颯夜対して、零音は驚きの表情を見せた。
「桃園だと! お前そんなこと言ってなかっただろ?」
「いや、だってね。桃園って名字、あんまり可愛くて好きじゃあないんだよね」
「どんな理由だ! それ」
刀を地面に刺すとそれを支えにして零音は立ち上がった。
颯夜は軽く溜め息をついた。
「まだ、戦えるか?」
「なんとかな」
零音も溜め息をつくと刀を構えた。
颯夜は期待通りの零音の行動に笑みを見せる。
「じゃあ、手っ取り早く半鬼以外の鬼を倒すとするか……」
そう言いながらも颯夜は刀を地面に刺したあと、黄土色の小さな袋を取り出した。
零音はその袋を横目でちらりと見た。
「何、その袋?」
問いに答えるように颯夜は袋から大量の種を出した。
「実よりも効果が無いが桃の種だ」
四個ほど持っている桃の種の一つを鬼の前に投げ飛ばした。
「桃は邪気を払い、不老不死を与える霊薬の果実だと言われる」
次の瞬間、鬼の叫び声があたりに木霊すると同時に鬼達は背を向けて逃げ始めた。
「消えるか? それとも逃げるか?」
颯夜は三つとも鬼の前に投げ付けた。
「選べ」
睨みつける颯夜の選択肢のうち鬼達が選んだのは後者のほうだった。
鬼達は桃の種から逃げるように去って行った。
「あれだけの鬼を……」
「これが桃の効力ってやつだ」
桃の種が入っている小袋を仕舞った颯夜は地面に刺してあった刀を抜くと刃の先端を唯一残った鬼、半鬼に向けた。
「あとはお前だけだ。覚悟するんだな」