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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編序

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 少女は何も言わない。馬鹿馬鹿しくなっているということもあるが、それよりもいろいろと考えることがあるのだ。
 ネタ。全てはネタ。
 語るほうも聞くほうもネタ。ネタネタネタ。でもそれは予防線。本当の気持をいつも隠している。突っ込まれることに怯え、揚げ足を取られることに恐怖する。そのための必死の予防線。それがネタというキーワードであるように丸山花世には思われる。掲示板ですら本当の気持ちを言うことはできない。いつも腕組みして、自分の本心は何重にもロックをかけておく。いつもいつも曲げる。他人に対しても、自分に対しても想いを曲げる。
 そういう人間が……真実を語ることはあるのか。
 少なくとも丸山花世の前にいる人間は今までの人生で一度も真実を語っていないのに違いない。
 「それにさ、刺されるのは木偶、だろ? みんなあいつのことを本物の香田哲だと思ってるわけだし。そのためにあいつを雇ってんだけどさ。頃合来たら切り捨てて『はい、さよなら』さ。あいつも、ここのところ、自分ひとりでできるみてーなこと言ってるし、ちょっとシメてやんねーといけねーよな、あのデブ」
 大村は顔を歪めた。育ちの悪さというものはやはり隠せないようである。
 「結局はアホなんだよな。オタクって。ペンネーム使って、素性も分からない奴のことを『この人は真実を言ってる』とか簡単に信じていくらでも金を貢いでくれる。オレなら信じねーけどな。本名も経歴もはっきりしない奴の言うことなんか。ま、世の中、馬鹿が多いからうまく回ってんだけど。オレもあいつらのおかげで今や、立派な作家さまの仲間入りだしさ。次はアニメ化か? それとも映画化? ははは!」
 「あのねー……」
 丸山花世は珍しく頭を抱えている。作家などという肩書きはいい加減な人間が名乗って良いものではない。少女には少女の理屈がある。もちろんそのことを大村は知らない。
 「作家なんて……ズルした人間がなれるようなもんじゃないんじゃないの?」
 少女の侮蔑に、大村は冷笑する。
 「それが、そうでもないんだなー。今の編集、手が縮んだ奴が多いからさ」
 「……」
 「あれ、花世ちゃんも、もしかしたら編集って物事分かった立派な人だと思ってる? だとしたらとんでもないことだぜ」
 大村は丸山花世の素性を知らない。だから、上から目線での講義になる。