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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編序

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 丸山花世は苦い顔をしている。
 「で、そうやって、連中の痛みが分かる人物を演じられれば第一段階は大成功」
 酔っ払いは高説を垂れ続ける。
 「そうやって連中の心に入り込んだら今度は連中のやっていることを思いっきり称揚してやる。アニメを見るのはサイコー! エロゲー最高! おまえらのやってることサイコー!」
 「……」
 「ま、ただ、褒めてやってもなんだから、歴史的な背景とか文化な解説をつけて賞賛してやればさらにいいわけよ。連中、結局は権威主義者だからさ。自分よりも強いものと一体になりたいわけよ!で、『アニメは古くから日本に伝わる浮世絵の流れに乗ったきわめて文化的な価値の高いものである』とか『海外では日本のアニメは大人気だ』とか言って。だから、それを愛好しているおまえらこそはサイコーの日本人だとか。そうやって、奴らのプライドをくすぐってやる。そうすれば、連中、オレのことを大好きになってくれるわけ。で、どうでもいいゴミみたいなオレの本、いくらでも買ってくれる」
 得意げな痴れ者に丸山花世は苦虫を噛み潰している。少女が拳を振り上げないのは、目の前にいる男が、自分が携わるものを『ゴミ』と認識しているらしいからである。
 男は確かに知っているのだ。自分が作っているものがゴミであると。
 オタクに対する背信。だが、作品の神様に対する背信ではない。そのような人間は……まあ、薄汚い相手であるが、時間にして五、六分ぐらいの執行猶予ぐらいはつけてやってもいいのではないか。と、大村は得意げに言った。
 「な、馬鹿だと思うだろ、花世ちゃん、童貞オタクって?」
 「……あんた、いつかオタクに刺されるよ」
 丸山花世は呻き、大村雅資は汚い歯を見せて笑った。
 「なんだよ、ネタだぜ? 2ちゃんねると一緒。ネタにマジに熱くなって、どうすんだよ」
 「ネタ……ねえ」
 丸山花世は苦い顔をしている。
 何でもかんでもネタ。愚弄してもネタ。嘲笑してもネタ。虚偽でもネタ。
 「でもさー、いろいろと事件とかも起こってるわけじゃんか、実際。殺したり、殺されたりって。ダンプで歩行者天国に突っ込んだり……」
 ネタは……ネタで済まない。冗談だったら何もかもが許されないのと同じ。
 「花世ちゃん、オレのこと心配してくれてんの? ありがたいねー! オレってやっぱりモテモテ?」