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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編序

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 返答はせずに憎悪交じりのひとにらみ。言いたいことがあるならば、食ってからにしろ。食ってからあとでも話を聞いてやるとは限らんが。だが、少女の嫌な視線にホストは特にこたえた様子も見せない。この痴れ者、どんな女も最後は自分の魅力に跪くと、そのように信じているフシがある。
 「あのさー、女子高生だったら、分かるかもしれないんだけれど、ケータイ小説って、あれ、どーなの? 花世ちゃん、君もやっぱり読んでるの?」
 男はいかにも馴れ馴れしい。そこが少女には鼻につく。
 「ケータイ小説だよ……ほら、よく見かける……」
 ケータイ小説。
 そういう話題を持ってくるということは……この男も業界人なのか。
 地下にある居酒屋。同時にそこは作家であるとか編集といった業界人の秘密のアジト。ホスト崩れのチンピラは続ける。
 「いやさ、弘子さん、オレ、今、ケータイ小説についての新書書いてんだけれど、なんかすぐレイプとか、妊娠とか、ドラッグとか……あんなゴミみたいなの読んでる女子高生ってちょっと馬鹿なんじゃないかと思うわけよ」
 丸山花世は複雑な顔をしている。時々いるのだ。他人に感情があるということも分からないし、相手に喜怒哀楽があるということも分からない人物。日の暮れかかった公園でガンダムのプラモデルを片手に延々と取り遊びをしている子供のような人間。ただういう手合い、自分の痛みにだけはひどく敏感。
 ――この野郎、どうにもならないクズだな。
 相手に『女子高生?』と尋ねておきながら、近頃の女子高生を馬鹿呼ばわり。
 「ああ、まあ、新書って言っても、きちんとした権威のあるところじゃないからさ。大きなところとか、学術書やってるところとかだと結構編集も厳しくてさ、いろいろとくだらねぇツッコミ入れてきたりするんだよ。たいして儲かってもいねーくせしやがって。けど、今、やってるところは編集も馬鹿で楽なとこなんだよ。テキトーにネットで調べたことを切り貼りして、キロバイトの目方さえあえばギャラだけはいくらでも引っ張ってこられる。楽な仕事だぜ。ま、そういうことができるのもオレが『香田哲』っていう看板背負ってるからだけど。名声ってやっぱり大事? 大事だよねー、名声は!」