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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編序

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 相手が聞いていないことを丸山花世も分かっている。分かっているからこその罵声である。
 「香田哲の名義はもういらねーやな。ああ、そうだ、どうせだから、木偶に売っちまうか。あいつにのれん代で300万。月賦で払わせるか……」
 オタクの教祖は金勘定は得意のようである。
 「よし! ケータイだ! ケータイ小説!」
 希望に燃えたホスト崩れはそういうと立ち上がった。 
 「ああ、弘子さん、お会計! あと、今度温泉行きましょう!」
 肌荒れの目立つホストの言葉に、店の女主人は笑っただけだった。
 「支払いはカードで!」
 大村は黒いカードをこれ見よがしに振り回した。いかにも田舎臭い行動が丸山花世の癇に障る。そして普通の人間と違って小娘は黙っているということがないのだ。
 「おいー! 千五百円ちょっとの会計、現金で払ってけよーッ!」
 少女の言葉は大村の耳には届いている。だが、耳からその先には伝わらない。気に入らないことは頭脳に入ってこない。大村という男の頭蓋骨は実に便利に作られている。
 「じゃ! 花世ちゃんも、オレに抱かれたくなったらいつでも来てくれ! 待ってるぜ?」
 大村はスーツを着ながらそう言い、少女は露骨に嫌な顔をして反撃する。
 「待つな! てめーの相手すんなら豚相手のほうがましだっつーの!」
 「ま、そのうち花世ちゃんも大人の男の良さが分かるってもんさ! ふひひひひ!」
 チンピラホストは薄汚いウインクをひとつ残して店から出て行った。
 まさに……小汚い台風一過、であった。
 「なんだい、ありゃ。アネキ、塩、撒いとく?」
 丸山花世は苦い顔のまま言った。
 「業界人ってほんと、ろくなのいねーよな……」
 「ま、そんなもんでしょう……」
 女主人は笑っている。
 「あんな馬鹿、出入り禁止にしよう! 千五百円しか使わねーなんて……何が教祖だ。ケチくせーッ!」
 妹は憤激しているが、主人のほうは笑っている。
 「ま……そう怒らない怒らない」
 「アネキも人がいいのか人格者なのか……あんな奴、さっさと店からたたき出してやりゃ良かったのに」
 「でも面白かったでしょ?」
 「不愉快なだけじゃんか」
 女主人はただ微笑むばかり。一方、丸山花世は嫌な顔ままである。