むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編序
「でもさー。そのキモイ連中があんたのカス作品、買ってるわけでしょ? そいつらのおかげであんた、威張ってられるわけじゃんか。連中がいて、今のあんたが成り立つ。オタクさまさまじゃないの?」
「けっ、何がオタクさまさまだよ。木偶もそうだけど、あいつらときたらロバみたいに頭が固いし、自分の理想から少しでも外れるとぶんとむくれやがるしさ。正直、扱い辛ぇんだよ。あんな連中と付き合わざるを得ないオレの身にもなってみろよ。だいたい、近寄ると臭ぇしよ!」
「あんたねー……」
丸山花世はすでに怒る元気もなくなっている。あまりにも相手がおかしいと怒る気力も失せるというもの。一方、香田哲こと大村雅資は両手を組んで思案顔である。
「そろそろ、進歩のねえオタク共も切り時だよな。あんな連中にいつまでも付き合ってたら、こっちの人生計画も狂っちまう」
「人生計画?」
「もっと上。もっと上だぜ。もっとビッグになるのさ。オタクから金を巻き上げるのはその第一歩さ」
「ふーん……」
丸山花世は同情するように相槌を打った。一方で、物見高い小娘は、香田哲の次の一手に関心がないわけではないのだ。
「で、どうすんのよ、ビッグになるって。第一歩はいいから、次の二歩目は? なんか、方策ってあんの?」
「……」
香田哲は石仏のようなおかしな表情になった。
「プロジェクトとか、なんか方針とか、そういうのってないの? ビッグになるんでしょ?」
「……」
「ないの?」
「いや、まあ……それは……そうだな……そうだ! ケータイ小説でも書くかな?」
「……」
いかにもテキトー。いかにも行き当たり場当たり。
「そうだ。そうするべ! あれ、書くの簡単だしさ! そう、そうだよ!」
ノリで生きている大村。まるで禽獣である。
「……あんた、そんなで、ホントにいいのかよ」
丸山花世は呟いた。
そんな思いつきで本当にいいのか?
「だって、あんた、さっき、『あんなゴミみたいなの』って言ってたじゃんよ。簡単に宗旨変えんなっつーの」
「いいんだよ! 大丈夫大丈夫! どうせレイプとかドラッグとか、妊娠とか、そういうの書いときゃいいんだからよ! ああ、そうだ! そうするべ! それだ、それ行こう!」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編序 作家名:黄支亮