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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編序

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 誰も彼もが自分のポジションを守るのに必死。ミスを許さぬスタイリスト。それはそれでいいが、物事を始めようとする時、たいていの場合、最初のチャレンジは失敗するのではないか? 失敗は当たり前。笑われるのも当たり前。でもそれだから誰も開拓をしようとしない、誰も一歩を踏み出さないというのは……それは停滞というのではないのか?
 版元だけではない。この国の全て、いたるところで、一歩を踏み出すことがなくなっている。全員が、である。それでいいのか? 人として。人生は一度きりなのに。 
 「結局、連中が求めてるのは企画じゃない。逃げ口上さ。仮に香田哲の企画がコケたとしても『ネットの世界では大人気だということだったんですが、難しいですね』って取締役にも言い訳が出来るだろ? 言い訳、言い訳、言い訳! 全て言い訳! 編集長の椅子を守ることに必死! けれど、そういうところに、オレみたいな人間が付け入る隙があるってわけよ!」
 大村はうれしそうに語った。
 「テキトーにゴマすって、褒めちぎって、靴の底までなめてやる。そうすりゃ編集なんていくらでも丸め込めるってもんさ!」 
 ネタと予防線を張る男が、他人の言い訳を笑って食い物にする。否。相手の弱さが分かっているから食い物にできるのか。
 「虚名っていうのは恐ろしいねー! ホント恐ろしい! いやー、ははは!」
 大村は乾いた笑いを作った。丸山花世は笑っているホストをじっと見て、それからちょっと疲れたように言った。
 「まあ、そりゃそれでいーけどさー、あんた、そんなの長く続かんでしょうが……」
 虚名はパワー。けれど、丸山花世は知っている。虚名は実力の前には無意味。
 「そんな、オタク食いものにして金集めて、脇の甘い編集だまくらかしたところで……ねえ、あんた……」
 丸山花世は首の後ろを掻きながら続ける。
 「だいたい、そうやって集めたオタクの人たち、これからどうすんのよ。あんたがアジって集めたわけでしょう? あんたを信じて集まってきた信者連にちっとは愛着とかってないの?」
 「あるわけねぇじゃん、あんなキモイ連中」 
 ホストは嘲るように笑った。