革命
La riviere ne grossit pas sans etre trouble.
昼過ぎのやたらと温度の高い日差しを受けて、女は気だるそうにベッドから身を起こした。
窓の外が騒がしい。何事かと思い、寝起きにはやや厳しい太陽からの光に目を細めながら、そっと窓から通りを見下ろす。
そこにあったのは人だかりだ。人々は口々に何やらと喚いており、辺りは騒然としていた。時折「医者を呼べ!」だの「こんなひどい事がゆるされるのか!」等と言う声が、この古い洋館の2階まで耳に届く。
どうやらまたどこかの平民が貴族に嬲られでもしたのだろう――女はそう推測すると興味が無くなった様子で鏡に向かった。
鏡には美しい女が映っていた。目覚めたばかりで化粧もしていなかったが、それでも十分なまでに美しかった。波打つように長い金色の髪に青い瞳。白い肌に大きな二つの乳房。すらりと伸びた長い手足。そして肉感的な体つきとは対照的なまでに細いその腰。完璧なまでに美しいその姿を鏡に見留めると、彼女はほっと安堵のため息をひとつ吐いた。
女は娼婦だった。体はその血の一滴まで全てが商品なのだ。そこから艶やかさが失われた時――全ては終わると、女は自分にそう言い聞かせ続けていた。
「ビオレッタ、起きてる? 入るわよ」
ふいに鈴を鳴らしたような透き通った女の声が、扉の向こうから聞こえた。
この洋館の合い鍵を持っている者は限られている。まして少女のような甘い声の持ち主ともなれば、その存在はただ一人だけだった。
ビオレッタは扉を開けるまでもなく、その向こうにいるのは幼馴染のドリーヌである事を確信し、気持ち良く声を張った。
「起きてるわ。入ってちょうだい」
ギィと重そうに扉が開くと、そこにはやはりドリーヌが立っていた。
黒い髪を綺麗に結いあげ、深い緑色の瞳はビオレッタだけを映している。声と同様に体つきも少女のように、抱けば折れてしまいそうな程にか細い。しかしその顔立ちはふっくらとしており、可憐な野菊のように愛らしかった。
「朝食を持って来たわ」
「有難う、置いておいて」
朝食と言っても既に昼過ぎなのだが、彼女達にとっては今が朝のようなものなのだ。そう、ドリーヌもやはり娼婦だった。