革命
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熱病に浮かされたかのようなフラフラとした足取りで、ビオレッタは自宅へと戻ってきた。
革命だと急に言われてもまるで現実感などありはしなかった。が、そのくせ彼女の心に、脳に、テオドールの言葉が何度も蘇るのだ。
『君は何も悪くない』
娼婦であるビオレッタが、自分の罪を否定してくれるこの言葉に魅力を感じないといったら嘘になる。けれど自分に何が出来るというのだろう? 一体テオドールは自分に何を期待しているというのだ? その事を考えるとビオレッタは空恐ろしくなった。
時刻は夜と言うよりは朝といった方が正しい頃合いだったが、眠気など微塵も感じられなかった。どうして? なぜ? その思いだけがビオレッタの心を支配した。
コンコン
ふいに遠慮がちなノックの音が耳に届いた。
「誰……?」
ビオレッタは目一杯警戒して扉を注視した。ビオレッタの部屋の前まで辿り着ける鍵を持っているのは、事実ドリーヌとビアンカおばさんの二人だけだったが、こんな時間に訪ねてくるなど過去に一度もない事だった。ならば一体誰が来たというのだ。もしかすると先程のテオドールの屋敷での会話を自警団あたりが聞いていたんじゃないだろうか? ふいにそんな考えが脳を掠め、ビオレッタはさっと青ざめた。
「私よ。ドリーヌよ。まだ起きてた? 入ってもいいかしら?」
予想に反して訪問者はドリーヌだった。聞きなれたその声にほっと安堵すると、ビオレッタは自分がわずかに震えていた事に気がついた。
「いいわよ、どうぞ」
震えを悟られないように凛とした声でそう答えると、重い扉がそっと開かれた。そしてそこにはビオレッタと同じように青白い顔をしたドリーヌが立っていた。