光った鳥
薄暗い店の中。鳥の鳴き声だけがざわめいている。その他のものはすべて命と時を忘れたように静まりかえっていた。ここには色がない。
私はまっすぐに鳥の鳴き声のする方へと歩いていく。迷いはなかった。ただ、心の中に波紋となって広がる鳥の叫びを探し出したいと言う思いだけだった。
美しいさえずり、鳥の叫び声は唄う。私は薄闇の中を操られて踊るだけだ。
店の奥、色とりどりの鳥たちが籠の中で声高らかに鳴いていた。そこはただそれだけの光景だった。
私はその中の一羽の鳥だけを見つめる。この鳥は私を待っている、いや私がこの鳥を待っていたのだ。
なぜかそんなことをぼんやりとした意識で確信する。淡い夢にたゆたう心。
何の色も持たない鳥。その瞳には何も映しださず、見るものを暗闇に落とす。鳥の声はやはり、ちいちいとうるさく、私の心はますます波立ってゆく。くらくらする。
この鳥が私の探す鳥だ……。
けれど、鳥は私を拒絶していた。私を待ちながら決して受け入れようとはしなかった。
私は、私の中の人が落ち切っていないのだと感じた。鳥の心には決して近づけない。私の気持ち、覚悟がきっと足りないのだろう。
少しずつ鳥の騒音が大きくなってくる。頭の中に鳴り響き、思いが叫びだしそうになる。足はふらふらと宙を舞う。
ああ、そろそろ限界だ。一刻も早く鳥の声の渦の中から出ようと思った。一歩、一歩、戻ってゆく……。私の足は木の棒のように見えた。
私は店を後にした。振り返ることはない。
それから何度目かの夜、私は夢を見た。
夢の世界は暗闇で、藍色の宇宙のようだった。自分が浮いているのか沈んでいるのかもよく分からない浮遊感。
暗闇から声がする、お前は誰だ。私、私は誰…。自分が誰だったか次第に思い出せなくなる。誰の姿も見えない虚空から声は続ける。
お前は空か、光か、闇か、涙か。
私は、私は何……。わからないわからない……。
私はただゆっくりと首を横に振った。
お前は鳥か。心が欲しいのか。
たくさんの言葉が闇から降っては消えていく。淡い粉雪のようだとぼんやりと思う。儚いものはきらいじゃない……。
頭の中は暗い混沌に沈み、次第に手足の感覚もおぼつかなくなってくる。それでも私の心にはかすかなひとつの光が見える。私は目を真っ直ぐに向けて……、すべていらないと答えた。藍色の宙ははじけた。