光った鳥
そして今日の朝、私の心は目覚めた。
自分の体が軽く感じることに気付く。何もかもがふわふわと浮ついた感覚で、すべてのことが遠く思える。
今なら空だって愛でることができる。忘れることができる。
鳥を迎えに行こう。そう思って今日この道を一歩踏み出したのだ。
道の途中、心は不思議と落ち着いていた。
空を見ても涙一つ落とさない。川の水の冷たさに目を閉じて、ただ心を静かにすることができた。
心に聴こえるは、あの鳥の声。
私は再びあの場所へと来た。
まちの中、相変わらず古びたお店。
鳥はやはりざわざわ鳴いていたけれど、私の耳にはとても静かに感じた。私を待つひとりの鳥は誰か、すぐに分かる。間違う理由なんて特にない。鳥は色のない鈍い感触の存在。
ここの鳥は無機質だ、生温かいのに生きていない。生きているのに物体だ。ああ、無機質なんだ。
私は自分が鳥を欲した理由から、目をそらすのをやめて受け入れた。
無機質なものは美しい。
あの鳥はもう鳴いていない。
鳥は淡く光を放っていた。ぼんやりとした優しい光で、綺麗。愛おしいという感情に私の心ははっと目覚める。
なんだか握りつぶしたくなる。私は残酷ではない生き物のはずだけれど。きっとこれはまったくありふれた感情でしょう。
私は鳥にそっと触れる。冷たい感情を抱くほどなぜかこの手は大切に大切に触れた。淡い光はこの手に暖かく、この鳥は生きていないのに不思議だと感じた。私の手が命を失っていたのかな。
鳥の目を見つめる。やはり吸い込まれるような空っぽな瞳だった。今私は穏やかな気持ちで瞳世界に同化する。鳥の瞳は宇宙のブラックホールを思わせた。終わりの見えない闇はすべてを吸い込んで、とても穏やかだ。
鳥の淡い光を私の目に焼き付けた。
ちいちい。鳥はたったひと声だけ鳴いた。耳に残り、心の世界を舞う麗しい音色だった。そして、鳥は私の手からそっと羽ばたいた。ゆっくりと優雅な飛翔。こちらへと向かってくる。
ああ、こちらへ来ればいい。私は鳥を待っていた。鳥は私を待っていたのだろうか。きっとどちらでもない。
淡い光。心。
鳥は私の胸のあたりから光って消えていった。私の中に入っていったのだろう。
きっと私は鳥。
鳥になれなかった鳥。
こんにちは、鳥。
さようなら、鳥。