ばーさーかー・ぷりんせす!
第一話 狂戦姫 (後編)
5.
はたしてフロリーナの推察通り、袋には息も絶え絶えの幼い赤毛の男の子が
縛られたまま放り込まれていた。神妙な顔でラッキーも覗き込む。
「姫、こいつぁ〜女の子じゃねえですね。助けても無駄…」
どっす。
「ごほ!」
ラッキーのボディに重い一発が入る。
「食料としてさらわれてきたか、そんなところでしょうな」
老執事のギャリソンが少年を助け出す。
「ええ、じい、着替えの用意をお願い。早くこのケダモノの鎧を引き剥がして」
兜を外しながら、ラッキーにレバー打ちをしながら言う。
「ゲフゲフ、あ鎧はおいらが脱がし…」
げしっ。
さらにアッパーカットが追加された。
* * * * *
「気がつきまして?」
「あ…ぼく、ブタのお化けに食べられたんじゃない…の?」
朦朧としながら、あどけない顔で少年がフロリーナに尋ねる。
「大丈夫、あなたをさらった悪いオークはわたくしたちが倒しましたわ。」
ドレス姿に戻ったフロリーナはやさしく答えた。
「ねね、どこから来たの? この先の村?」
マリアの問いに、少年は急速に覚醒した。
「! たいへんだ、にいちゃんがさらわれた!村のみんなも!」
少年はウィルと名のった。田舎村に兄のマシューとふたり暮らしていたが、
突然襲ってきたオークの集団に村は襲われたという。抵抗するものは殺され、
逃がしてくれた兄は代わりに彼等の寝ぐらに連れていかれたのだと。
「この山の向こうに、もっと大きくて強いオークがいるんだ。おねえちゃん、
お願い! にいちゃんと村のみんなを助けて!」
黒い瞳に涙をため、少年は懇願した。
「ぎへ、どーするー? 姫さんよ」
鞄から発せられる魔鎧の問いに、
「もちろん救けに行きますわ。それがわたくしの使命ですから!」
迷いもなく、彼女は毅然と答えた。
作品名:ばーさーかー・ぷりんせす! 作家名:JIN