ばーさーかー・ぷりんせす!
4.
<『美しき青きドナウ』のBGMで>
すぱーん
すぱーん
すっぱぱーん♪
「ぶひ」「ぶひ」「ぶひぶひー!」
重厚で無骨な鎧が優雅に舞う。なます切りにされたオークだったものの山が作られ
る。
「ほーっほほほーっ 無様な死に顔をさらしなさいっ! 生まれたことを後悔なさ
い! どす黒い血がお似合いよっ! ほほほほほほほほほほ…」
シュバッ!
華麗に回転を決めると、斧の上には豚顔と豚足が中華料理の大皿よろしくちょこん
と並んだ。死の輪舞が続く。たまらず2匹が顔を見合わせ、ボスに助けを乞い逃げ
惑う。
「ぶひゃ〜、親ブーん、あの娘ムチャクチャ強いブー」
「化け物だブ〜〜」
「オレたちより太いブ…」
シュラババッ!
言い終わらないうちに2匹はチャーシューと成り果てた。
「おだまんなさいっ、外道!」
兜の隙間から青い瞳がぎらん、と光った。
「ぎひひひ、やるなぁ姫さん」
甲冑の悪魔の顔もまた残忍に笑った。
「おお、見事な斧さばき、さすがでございますな姫。じいは嬉しゅうございます
ぞ」
ギャリソンが遠眼鏡で見物している。いつの間にか紅茶も入っている。
「どこどこどこ!? フロリーナ姫! あああっっ、もう鎧着てるよ! ちくしょ〜!!」
目が醒めたカバン持ちのラッキーが目を皿のようにしながら地団駄を踏んでいる。
(BGM、『くるみ割り人形』に)
大斧が豪快に、かつ楽しげに回転する。
「ただ今ぁ、姫さまのバーサーカー(狂戦士)モードが発動中です〜」
「はーい下がって下がって♪」
聖女のルーシーと魔女のマリアが仲良く告知する。…観客はいないが。
大回転! 大斧を持つ凶悪な風車がオークの群れに突き進む。
「ぶげげげげげげげげげげげげげっぶぶぶげげげげげげげげげ」
回転が止まった。逃げ損ねたオークの残党は、命乞いをする間もなく綺麗なミン
チになった。
「はあ、はあ、はあ、ざ、ざまぁ見ろですわ。はー。」
戦い済んで。戦姫の兜の中の瞳に穏やかな光が戻ってきた。
「―――は、わ、わたくしとしたことが野卑な言葉を。ああっ、殺戮の快楽に一時
でも身を委ねてしまうなんて。王家の恥さらしですわ! そのうえ…」
真っ赤になって目に涙を浮かべている。
「ルーシー、清めの聖水を…あら?」
その時、オークの残骸の陰に動くものがあった。
「ズタ袋ですね〜。ちょうどワンちゃんが入れるくらいの〜」
「―――! ラッキー、すぐにお開けなさいっ、ルーシー、治癒魔法使えて? マ
リア、気付けの焼きイモリは残ってますの?」
姫の勘は当たった。そこには一人の少年が、縛られたまま放り込まれていた。
<続く>
作品名:ばーさーかー・ぷりんせす! 作家名:JIN