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ばーさーかー・ぷりんせす!

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2.

 目の前の荒野を見てルーシーがつぶやく。
「この辺りもぉ、前は豊かな緑に覆われたぁ、サピオという村だったのです〜」
祈りを捧げる少女に、姫もまた嘆く。
「それも王家であるわたくしの至らぬせいですわ…」
「いやいや、御自分を責めてはなりません。いつも身を挺して戦っておられるのは
姫だけではありませぬか。」
ギャリソンの言葉に寂しげに微笑むフロリーナ。もう少し役に立っても、とは言え
はしない。すると、
「ギヒヒヒ、オレ様は役に立つぜ?」
ラッキーの背負う大きなカバンがゴトゴト揺れ、中からドラ猫がうなるような声が
した。
「おだまりなさい! 汚らわしい鎧のくせに。ああ、何で貴方なんかを着て戦わな
ければならないんでしょう? 思い出すだに蒸し暑いですわ獣くさいですわっ!」
姫の罵倒にも『鎧』と呼ばれたカバンの中身は動じない。
「そう嫌うなよ、オレ様とあんたは運命共同体じゃねえか。ギヒャヒャヒャ!」
ぷいと顔を背け、フロリーナはずかずか歩き出した。
 一行はいつものこととついて行った。

 しばらくすると土煙が遠方に上がっているのが見えてきた。
「? 何か〜、邪悪な気配がします〜」
まっ先に気付いたのは小さくとも聖職者、ルーシーである。褐色の霧の中から、ぶ
ひぶひと声がする。現れたのは、凶悪な豚の頭にでっぷりとした巨躯を持つ、三流
魔族のオークであった。しかしその数は何十人いるか定かではない。
「ややや、オークの大群だ、らっき〜〜っ! フロリーナ姫っ、い、今すぐ鎧にお
着替えを! お召し物はお、オイラが脱がし…」

ガスっ!

見事なエルボーがラッキーの顔の中心に入る。打ち付けた板金が逆に凹むように彼
の顔は愉快になった。
「姫〜、ヒールの魔法、この下僕に使っていいですか〜?」
「たぶん、死んじゃうよー、きゃははは」
ルーシーはのんびりと、マリアは楽しげに聞く。これで彼女たちの魔法は当分使え
ない。幼い彼女達はまだ癒しの力も攻撃魔法もまとも使えないのだ。
「姫様! じいはここにおりますぞ。闘う破廉恥なお姿は見ておりませんぞ〜」
ギャリソンはてきぱきと持ち場につく…というか隠れていた。塹壕がいつの間にか
掘られている。
「ギヒャヒャヒャー! いい仲間を持ってんな? お着替えだぜぇ姫さんよ、はよ
脱げや。」
巨大なカバンから下卑た声が聞こえる。ぴく、ぴく。細面の高貴な顔に極太の血管
が浮き出している。
「…あ、あなたたち…グス…い、行きましてよ。オークどもを殲滅いたしますわ!」

 こうして彼女の行き場の無い怒りは戦場へと向けられるのであった。しかーし、
勇ましいお姫さまの本当の受難はこれからである。オークどもとの戦いとは別の悲
劇が待ち構えているのだ。
作品名:ばーさーかー・ぷりんせす! 作家名:JIN