DIVISION GRAFFITI -境界の落書-
青年はメイのすぐそばまでやってくると「・・・・・・忘れものだ。おぬしのものだろう? この高価そうな小物入れ」
「――――こンのっ・・・・・・」
「次は気をつけろよ、大切なもので」
「サラサラヘアーがああああぁぁっ!!!」
メイは綺麗にアッパーを決めて青年を吹っ飛ばした。
顔面から無様に着地する。低い位置でまとめた長髪がなびいた。
「さっきから鬱陶しかったのよ、そのサラ毛! どうせ地毛なんでしょ!? 羨ましくなんかにもんねうわーん!!!」
「理不尽・・・・・・」
メイが倒れている青年に歩み寄った。頭のすぐ横で仁王立ちしている。
「少し荒んでおるぞおぬし、死んだソメナ殿も悲しかろうて・・・・・・」青年はしかめっ面をして見上げると、はっとした。
――――泣いている。
青年の頬に、メイの涙が落ちて流れる。それがスイッチだったのか、何かがきれたようにその場で泣き崩れた。
実の母の死――――。悲しくないわけない。不安で不安で仕方ないに決まっている。
「おぬし・・・・・・」
話だけでも聞いてやらねば、あまりにもかわいそう過ぎる。
*****
「そうかおぬし、本当は除霊師を継ぎたくはないのか」
「うん・・・・・・わがままよね」
「思ってしまう事は仕方あるまい、止められぬよ」
メイと青年は、ソメナの墓の前に座っていた。こうしているとなんだか落ち着くような気がする。
まだ赤く腫れた目をこすってメイは続けた。
「私にはそんな才能なんてないし、度胸もない。私はもっと自由に生きたいの。それなのにみんなして『後継ぎはメイだ』って噂してるのよ? ホントやになっちゃう」
青年は顔を伏せて、メイの話に聞き入っていた。
「きっとみんなは、お母さんの生死よりも仕事の安否の方が大事なんだわ」
「そんなことは・・・・・・」
「見てりゃわかるわよ、ふたこと目にはいつも家業家業って。権力なんてそんなに大事なものなのかしらね」
「メイ殿・・・・・・」
「その呼び方やめて。メイでいいわ」
メイは墓標のそばの落ち葉を拾い上げて、指でわきに飛ばした。
細い指をしている。
「除霊師を継ぎたくない・・・・・・か」青年は記憶の糸をたどりながら、空を見上げた。
――――このフレーズ、以前にも聞いたことがあったな・・・・・・。
作品名:DIVISION GRAFFITI -境界の落書- 作家名:春 ゆみ