DIVISION GRAFFITI -境界の落書-
第一魂
辺りがたくさんの人であふれかえっている。大人から子供まで、男女問わず幅広い年代層の人が家の周りに集まっていた。
彼らはそれぞれでチームを作って、それぞれの会話にふけっている。
――――まるで、お祭りみたい。
そう考えるとなかなかにぎやかそうに感じるが、実際は皆、葬式に呼ばれて集まったにすぎなかった。
着ている服は皆質素だ。
「ホント、よくこんな葬式の後にしゃべることがあるわね」
でも話している内容は、そんな明るいものではないはずだと、今回死んだ『ソメナ=ランテス』の娘である、『メイ=ランテス』は思っていた。
そう、信じたかった。
先程、母の入った棺桶が土葬された。
今回来てくれた人たちにお辞儀をしながら、メイは周りの人たちの会話に聞き耳を立てる。さっき自分が聞いていた老夫婦の会話には、母の話題など全くと言っていいほど出てこなかった。来た時は二人とも、あんなに泣いていたのに。
――――ほんと、こんな人達ばっかり・・・・・・。
メイは半ばうんざりしながらため息をつくと、お辞儀をしながら今現在のターゲットである、伯父のジェファーと知らない女性を盗み見た。二人の会話内容に集中する。
別に、ところかまわず盗み聞きしているわけではない。
どうやら、母ではなくメイの話をしているようだった。
女性は手に持ったハンカチをしまいながら言った。
「――――本当に今回はご愁傷さまでした。急なことで、だってまだ若かったでしょう?」
「ああ、ソメナはこの前43になったばかりだ」ジェファーは鼻をすすりながら、まだ傷一つない墓石を眺めた。「まだまだこれからだという時に」
女性が首をかしげて言った。「・・・・・・これからはどうするんですかランテス一族は。除霊師の御三家でしょう? だれが継ぐことになっているので?」
「一応はメイという事になっている」大きく飛び出した下っぱらを揺らしながら、ジェファーは続けた。「・・・・・・だがまだまだ実力不足だろう、あの娘じゃ。悪く思わんでほしいが」
――――実力不足で悪かったわね!
悪く思うにきまっているだろう。メイは横目で冷やかにジェファーを睨むと、そばにいた友人に、少しの間代わってくれるよう頼んで、その場を離れた。このまま聞いていても、同じような内容を繰り返されるだけだ。
メイが葬式からいったん退場したことにも気付かず、ジェファー達は談笑し続けていた。
悔しかったが、とても言い返す気になんてなれない。これ以上傷をえぐられるのは、もうごめんだ。
――――そうよ、私なんかじゃ継げるわけないじゃない!
メイはレンガ造りの街並走り抜けた。
葬式用のドレスが足に引っ掛かって邪魔だったが、それをメイは直そうともせずに、ただひたすら走った。とにかく今は、葬式会場から離れたかった。ただ、それだけのために走った。
「それでもみんなして『継げ継げ』っていうんだから! 無茶なこと言わないでよね・・・・・・!!」手の中にある母の形見をさらに握りしめながら、メイは走り続けた。
ぶつくさ文句を言いながら、目の前の十字路を右にまがった。右に曲がってどこに行こうとか、そんな事は考えていなかったが、そこでなんとなく右折した。
足が自然にその方向に向く。
その時――――――。
本当に、前を見ていないのがいけなかった。
メイが勢いよく曲がった直後、真正面から、メイの方に向かって一人の男性が走ってきた。相手も一瞬だが、驚いた顔をしていた。よけきれない――――――!
メイは思わず目をつむった。
身体を固くしてぶつかる覚悟をする。ごめんなさい知らない誰か!!!
――――ぶつかる!!
ドンッ!!
―――――――と思いきや、突然メイの身体がふわっと浮いた。世界がくるりと回転する。綺麗な弧を描いていた。
「えっ・・・・・・」と同時に、メイは背中から勢いよく地面にたたきつけられた。相手の腕がメイの胸蔵と腕をつかんでいる。
見事な一本背負いだった。
目の前の青年がメイの顔を見て狼狽した。
「うわ、しまったつい・・・・・・条件反射で・・・・・・!」
あわててガッツリつかんでいた両手を離すと、青年はあおむけに寝ている状態のメイに、起き上るための手を差し伸べた。
色白の手をしている。「大丈夫か娘・・・・・・」
作品名:DIVISION GRAFFITI -境界の落書- 作家名:春 ゆみ