DIVISION GRAFFITI -境界の落書-
プロローグ
少年は視た。変わり果てた自分の世界を。
これは、いつも自分が視ていた世界じゃない。
別に、少年がどこか異世界に飛ばされてしまったとか、そんな大それた話をしているわけではない。単に、いままで見えていなかったものが視えるようになってしまった。ただそれだけの話。
「セルザさん・・・・・・どこ・・・・・・?」少年はフラッと立ち上がると、ゆっくりと暗闇に包まれた草原を歩きはじめた。
片目が痛い。ふと手をやると、手には妙に冷たいものがべっとりと染み付いた。
―――――血だ。
「セルザさん! いたら返事して!! どこにいるの!?」それに答えるかのように、落ち葉をはらんだ冷たい風が少年のわきをすり抜ける。顏にかかる息が白い。
少年は足を引きずりながら先に――――『前に』進んだ。
スタートもない。ゴールもない。
ただ目の前には先の見えない暗闇があるだけ。前に進んでも後ろに進んでも、結局は同じなのかもしれない。
ただ足を、前に進むように動かしているだけだ。
そんなことを考えながら歩いていると、少年の冷え切った足元に何かが当たった。
「いたっ!」転んだ。血のにじんだ手のひらを眺めて立ち上がると、少年はゆっくりと下を向いた。目の前には見覚えのある、ストレートヘアーの女性が横たわっていた。
片目が・・・・・・ない・・・・・・。
「セルザ・・・・・さん・・・・・・?」
――――――この時、少年は『道』を踏み外した・・・・・・
漆黒の闇の中に、悲痛な叫び声が響き渡る。
――――――踏み外した『そこ』は、決して人間の踏み入れてはならない、禁断の道・・・・・・・・・・・・
作品名:DIVISION GRAFFITI -境界の落書- 作家名:春 ゆみ