サイコシリアル [2]
「お前は、それでも人間なのか! 自分の趣味嗜好、性癖を他人に押し付けんじゃねぇよ!」
「うるさいなぁ、せっかく次の殺人方法が沢山浮かんで来たっていうのに・・・・・・もういい。殺すよ?」
「殺してみろよ・・・・・・僕を殺せるなら殺してみろ。もし僕を殺したら、その時はお前も殺す」
「ひゃはっ、いいネ。殺し合いなんて久々すぎて勃ってしまいそうだヨ」
「いいか、斬島。本気で来い。本気で殺しに来い、僕は、お前の本気を━━弄んでやる。そして僕は、本気で手加減してやるよ」
勿論、ハッタリだ。
僕は殴り合いの喧嘩もしたと無いくらいなのだから。
けど━━勝つ。妹を守る。
僕は、そう決意しながら、尻ポケットに入れていたバタフライナイフを取り出した。
「本気で手加減か。大出血サービスだネ。この場合は、本当に大出血だ」
あながち冗談ではないのは分かっている。
一つでも間違えれば、僕の体は大出血なのだから。
僕は、戯贈に言われた、最悪の場合についてのレクチャーをずっと頭の中で反復していた。
「━━来い、斬島」
僕の言葉と同時に斬島が走り出した。そして、また同時、僕は後ろの妹を更に後ろへと突き飛ばした。
斬島は右手を大きく振りかぶり、袈裟斬りのモーションへと移った。
━━予想通りだ、戯贈。
『大抵の人間は、冷静さを欠いていれば、大ぶりになるわ。斬島の場合は最もね。彼はプロでもないしアマでもない、ただの素人なんだから。フラストレーションもたまっているだろうしね』
作戦会議中に戯贈が言っていたことだ。
僕は、左斜め前方から襲ってきた斬島の袈裟斬りをギリギリの所で避けた。
分かっていても、避けるのは難しい、というか怖い。当たったら即終わり。
死亡。
「そんなもんか、斬島!」
大ぶりを空振りした斬島が体勢を崩した所に、僕は拳を叩きこんだ。
勿論、顔面に。
渾身の力で。
「━━っ!」
瞬間、激痛。
痛みが走った部位に目をやると、そこには一本のナイフが刺さっていた。
右手という名の利き腕が潰された瞬間だった。
隠していやがったのか・・・・・・。
こればっかりは、凶器を隠していないと仮定した僕の判断ミスだ。
斬島は鉈の他に、ナイフを隠していたのだ。
未だかつて味わったことのない激痛に僕は蹲った。
「遊びはこれまでだヨ、坊や」
頭上からは死の宣告。
完璧なまでのデッドエンド。
そして、僕はまた一つ見逃していた。斬島が僕のことを『坊や』と呼んでいるのだ。キレそうになった時の斬島は、僕のことを『お前』とか『小僧』と呼んでいたはずだ。決定的なミスだ。
斬島は平静を失ってなんかいなかったのだ。
平静を失ったかのように演技をしていただけ。
嵌められただけ。
相手のペースに乗ってしまった僕が、悪い。
斬島が大きく鉈を振りかぶった。勿論、僕の首を落とすために。鮮血という名の悦楽を得るために。
少し後方では、僕ではなく、妹が断末魔のような声を上げていた。
世界がスローモーションに変わる。死を意識し、意識が加速し、僕だけの時間感覚が狂う。
斬島の人間離れした笑みも、形相も何もかも。皺の一つ一つ鮮明に、脳が映像として処理をする。
振り下ろされてきた鉈の艶も、職人の技も、角度も何もかもが映像として処理される。
作品名:サイコシリアル [2] 作家名:たし